仲間が死んでいく。一人、また一人と倒れていく。
いつかに勝利を誓った友人も、罵ってきた人間も、皆死んでいた。
「良かった……! まだ生存者がいた……」
魔物の笑みを切り裂いた青年は、もう死んでしまいたいと願う僕を救い、抱きしめた。
「なぜ、助けてくれたんですか」
数日後。様子を見に来た青年に問う。その質問に青年は一瞬鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をした後、笑顔で答えた。
「ただ目の前で人が死ぬのが嫌なだけだよ。これまで散々見てきたからって、諦めたくはなくてさ」
「……僕は……そう思えなかった」
仲間が悲鳴をあげていた。助けてくれと叫んでいた。何度も何度も自分の名前を叫んでいたのに、自分は脚を動かそうだなんて思えなかった。死んでいく仲間を見て、自分もこのまま死のうか、だなんて思っていたくらいなのに。
「―――いいんじゃない? 」
「え」
困惑だとかそういう感情が来るよりも前に頭が真っ白になった。
「それはきっと、誰もが通る道だよ。俺にもあった」
「でも……」
「あの子たちが死んでいい理由はない。震えながらも世界のためにと剣を握って魔物に立ち向かった。その結果死んでしまったのは悲しいことだよ。でも、その惨劇がなければきっと僕はここにいない」
『あの子たち』を思い出しているのか、青年は目を瞑っていた。
しばらくして目を開いたけれど、その表情はなんとも表しがたいものだった。
「君は……もう一度剣を取ろうと思えるかい? 」
目の前の青年は、今も魔物と戦う先輩たちは皆これを乗り越えたのだろう。きっと死者をはっきりとその目に映しながら、駆けている。
あの時自分は目の前で死ぬ仲間や友人を助けたい、と思っていた。でもそれ以上に『生きたい』と思ったのだ。まだ、まだまだ生きたいと。でも助けようともしなかった自分がそんなことを思うのがおかしくて、『死にたい』と思い込むようにした。
「走り続けられるでしょうか。弱い、んですけれど」
「弱い、と自分を卑下するのは良くないよ。……カッコつけてるようだけれど、まだ不完全、と言った方がまだいい。……まぁ、昔僕がそう思ったり、言ったりしていただけなんだけれど」
苦笑いして、頬を紅潮させて。耐えきれなくなったのか、小さな声で『ごめん』とか言ったり。
そんな彼が少し面白くて、思わず笑ってしまった。救ってくれた時の彼はかっこよかったが、こういう部分もあるらしい。
「……ありがとうございます。いつかの貴方のように、僕もそう思うようにします。……まだ、不完全と」
「あ、ああ……! なんだかとても恥ずかしいけれど……嬉しいよ。はは……」
僕はまだ不完全だ。誰かを助けに行くほどの勇気も実力もまだない人間。
けれど、けれど……いつか彼のようになれたのなら。いつか、誰かに彼のような言葉を言えるようになれたのなら。
「良かった! まだ生きている人がいた……!! 」
8/31/2023, 11:05:38 AM