『ところにより雨』
小説や映画の好みに、その人の性格が滲む。
だから私は貴方の好きな本が知りたかった。
隣のクラスへ遊びに行くと、貴方はいつも教室の隅で本を読んでいた。
黒縁メガネで目に少しかかる前髪と、しなやかな指先が綺麗な人だった。
明日に卒業式を控えた生徒たちはどこか落ち着きがなく、まるで少し大人になったかのような顔をしている。
少し開いた窓から桜の花びらが入り、カーテンが揺れる。貴方の前髪がさらりと揺れる。
ゆっくりと規則的に捲られるページが、春風によって狂わされた。
眩しそうに顔を上げ、淡い水色の空を見あげた貴方の横顔から目が離せなかった。
卒業式当日。私は彼を探した。
みんなが校庭で涙を流し、思い思いに写真を撮る。
彼はどこにもいなかった。私は廊下を走った。
最後くらい、全力で走ったていいでしょう?私の後ろ姿を先生たちは何も言わなかった。
校庭の端から端、校舎の隅から隅、全てを探し終えた頃には日が暮れかけていた。
君はいなかった。もう帰ってしまったのかもしれない。そもそも来なかったのかもしれない。
家も知らないし、進学先も知らない。
もっと早く話しかければよかった。
言えばよかった。何も言えなかった。
泣かないって決めいていたはずなのに、次から次へと溢れて止まない。
少し冷たい風が私の髪を揺らす。
桜の花びらが舞って、世界を包み込む。
はらはらと散って、私を隠す。
今日の天気は晴れ予報。ところにより桜の雨。
2026.03.24
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3/24/2026, 10:16:26 AM