「さぁ冒険だ!」
「え?」
ササメは僕の手を取ると、そのまま高く掲げて、堂々と言い放った。
僕の名前はキタ。ササメは僕の幼馴染。僕たちは同じ村の隣の家で生まれ育った。僕とササメは小さい頃から、いつも一緒で、隣町の学校へも二人で登下校した。村には他にも子供は居たけれど、同い年の僕とササメは特に仲がいい。
「聞いてんのか?」
「あ、うん。列車に乗って、遠い街に行くんでしょ?」
「遠いって言ったって、隣の隣だろ?小一時間もあれば、行って帰って来れるって。」
「でも、お母さんに言わないと、列車代が無いよ?」
「えー?内緒だから良いんだろ!」
「うーん。」
僕は、自分の貯金箱にいくら残っていたか考える。この間、図書館に行った帰りに、ササメに強請られて、おやつを買ってしまったから、ほとんど残っていないはず。
「やっぱりダメ。お小遣い無いもん。」
「俺が出してやるから!いいだろ?」
「うーん。」
どうしようかなぁ。遠くへ行く時は、お母さんに言うように言われてるし。だけど、今日は、お母さんは街に買い物に出かけている。昨日の夜に聞かされていたし、さっき帰った時も机の上に「おやつはれいぞうこ」と書かれた紙が置いてあった。
「あ!」
「どうした?行く気になったか?」
「あー、うん。その前に一回、家に帰ってもいい?」
「いいけど。小遣い無いんじゃないのか?」
「うん。無い。ササメが出してくれるんでしょ?」
「じゃあ、何しに帰るんだよ。」
「えっとぉ。」
ササメはお母さんに内緒にしてって言うけど、僕はやっぱりお母さんとの約束を破りたくない。だから、お母さんがしてくれたみたいに、僕も置き手紙をしようと思う。だけど、手紙を書くなんて言ったら、ササメは「内緒じゃないのか」って、機嫌が悪くなるだろうし。
「えっと、カバンを持っていこうかな、って。」
「カバン?」
「その方が大人っぽいでしょ?」
「そぉかぁ?うちの父ちゃんは、カバンなんてダサいって言うぜ?」
「えっと、列車の中で食べるおやつも持って行きたいし。お母さんが作ったクッキーがあるから。」
「本当か?!」
ササメの目がキラリと光る。
「うん。」
「今日のおやつは?」
「パウンドケーキ。」
「果物たっぷりの?」
「たっぷりの。」
「よっし!!」
ササメは膝を叩くと、座っていた岩から立ち上がる。
「行き先、変更!」
「え?」
「今日は、キタの家でケーキパーティーだ!」
そういうと、ササメは僕の家へと走り出す。
「えええっ?」
まぁ、最初からササメの分もあるからいいんだけどさぁ。
「ササメ、待ってよ!」
「早く来いよ!」
首から下げた家の鍵を握りながら、ササメの後を追う。
「僕が居ないと、家に入れないよ!」
2/25/2025, 12:03:00 PM