わをん

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『それでいい』

近所の自治会の剣道教室に通っていたことがある。講師を勤めていた先生は普段はまあまあ優しそうに見えるけれど、道着と袴を身に着けるときは厳しい先生だった。竹刀を雑に扱ったり、試合ではないときに竹刀でチャンバラごっこをやった時には泣くほど怒られたものだ。
剣道は物に対する姿勢、所作に対する姿勢、そして相手に対する姿勢に気を配るものだ。剣の振りがおろそかになっていることをよく叱られていたが、竹刀の扱いにも慣れてくると耳にタコができるほどに聞かされていたことがある日にわかるようになった。竹刀の振り方も蹲踞も礼も身を入れるとまったく違うものになる。
「それでいい」
初めてそれを実践できたとき、先生が満面の笑みで褒めてくれたことが今でも忘れられない。

4/5/2024, 4:17:51 AM