クロード・モネはきっと、光と霧の狭間で世界を見ていたに違いない。
曖昧な輪郭の中に、空気と光の動きが閉じ込められている気がする。
美術館の中は静かだった。
観覧者は珍しいことに、私一人だけで、あとは学芸員たちが、アートの一部かのように、寒そうに、片隅に座っていた。
私は、ゆっくりと静謐の中を歩いた。
絵画はどれも、何かを伝えるように沈黙して、穏やかな光と霧の狭間の世界を見せつけていた。
私は荷物を持ち直し、ゆっくりと歩いた。
足音が染み込んだ床のカーペットは、私の歩いた音さえも、例外なく飲み込んだ。
どこからともなく、冷房の、冷たい風が吹きつけた。
くしゃん、と、静かに座っていた学芸員がくしゃみをし、あわてて膝掛けを取り出した。
窓がない展示室だったが、光も霧も影さえも、それは絵画の中に、静かにあった。
私はゆっくりと静謐の中を歩いた。
クロード・モネはきっと、光と霧の狭間で世界を見ていた。
そう確信を持って。
10/18/2025, 11:43:42 PM