ひと仕事終えて帰路に着き、風呂に入って缶ビールを開ける。
なんとなくテレビをつけて流したニュース番組。
ウェザーニュースで追加される情報が、いつの間にか花粉から紫外線にに切り替わっていた。
意識してしまえば雨の日が増えてきたと実感する。
夏は少し苦手だ。
背中を追い続けた先輩が引退して、新チームで臨んだインターハイは初戦敗退。
前年度準優勝という輝かしい功績に泥を塗ったのは紛れもなく俺だった。
悔いはあるが、冬の全国大会ではベスト4。
なんとか体裁を整えることはできたと自負している。
競技を毛嫌いするようなトラウマにならずにすんだのは不幸中の幸いだ。
数年経った今も、あの夏の結果は俺の中でしこりとして残っている。
おかげで青春の名残に夢を見ながら年を重ねた、やっかいなオッサンが完成してしまった。
缶をカラにしたところで日付が変わる。
急に重たくなった腰を無理やり上げて、寝支度を整えた。
寝室に入った途端、つい声を漏らしてしまう。
「えぇ……」
あどけない顔で眠っているのは同棲している彼女だ。
寝室は除湿が効いていて冷えているのに、タオルケットは足元に追いやられている。
Tシャツとハーフパンツは寝ぼけた状態で脱ぎ捨てたのだろうか。
シャツは頭の上でくしゃくしゃに丸められて、ハーフパンツは片足だけで履いていた。
どうしてこうなった……。
普段は凛としているし、寝ているときには幼さを残すがここまで乱れることは初めてだ。
控えめな胸や太ももが露わになり目に毒なこの状況にもかかわらず、暑さゆえに子どもみたいな行動をしたであろう彼女に失笑する。
そういえば彼女との出会いも夏だった。
眩しくて、苦しくて、全身が熱くなるのは夏のせいではない。
青々とした夏空の下で笑う彼女は、力強く光を射す太陽よりも煌めいていた。
しかし、当時、キラキラと眩い彼女の瞳に映していたのは別の男で。
その相手もまた、確かに彼女を慈しんでいたから横恋慕するに気もなれなかった。
俺の恋は一瞬で散った。
やはり、夏は苦手だ。
タオルケットを彼女に被せたあと、隣に潜り込んで小さな体を抱き締める。
彼女の少し冷えた肌に、夏の気配を感じ取った。
『夏の気配』
6/29/2025, 2:16:08 AM