ずい

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『二人だけの秘密』

勇者の秘密を知ったのは、二度目のダンジョン攻略の最中だった。一度目は初級なこともあってただ倒せば良かった。言葉を操る魔物はいなかったのだ。ダンジョンのラスボスさえも。
けれど今回は違った。
中盤に差しかかったころ、助けを求めてきた魔物がいたのだ。仲間を助ける素振りも見せた。

「勇者潰しの差し金か?」

苦しそうな魔法使いの呟きがやけに耳に残った。
勇者潰し。それは、王女のころ魔王に家族を殺された現女王の、秘かな二つ名だ。あえてレベルに合わない命令をすることからきている。
助けられなかった勇者に対する憎しみだ、勇者を死なせたくないのだと世論は多数に分かれていた。

結局その日は中盤で休息を取ることになった。
エルフの私、勇者、獣族、魔法使いの順で見張りを交代することにした。その、交代時に。
明らかに寝不足な顔で彼はやってきた。

「寝て」
「いや、でも」
「いいから寝なさい。私は二人分くらい平気よ」

そう言って見張りに戻ろうすると彼が隣に座った。

「眠れないんだ」
「あのねえ、」
「怖くて眠れない。今日倒した魔物が泣いていたんだ。あの声が、顔が、倒したときの感触が頭から離れない。前は時間が経てば何とか眠れたんだよ。こんな印、何で僕が選ばれたんだ?」

彼の手の甲には花のような紋様がある。いつもはグローブで隠しているそれが、今は赤くなっていた。何度も引っかいたのだろう。少しだけ血が出ていた。

私は彼の手を取ると、魔物が寄らない程度に治した。
近づいたついでに丸くなった背をさする。

最初の彼の仲間、魔法使いは言っていた。
勇者は優しすぎる。選ばれた者なりに力はあるものの、いつか優しさが仇となる、と。

「ねえ、一つ教えておくわ」
「何?」

彼の顔をのぞき込むようにして小声でささやく。
エルフの里を、故郷から誘い出してくれたとき、彼にされたように。

「私だって怖いわよ」

彼の泣きそうな目が大きく開かれた。
こぼれた涙が炎で反射して輝いて見えた。

「怖い? 僕より強い君が?」
「数十倍は強い私が。当たり前よ。でも私はあの時、困っている人たちを救いたいと言ったあなたと旅をする道を選んだ。あなたも選んだのでしょう?」
「……そうだね」

目的を思い出せ、なんて言わない。
彼だって分かってはいるのだから。

「少しだけ肩貸してもらってもいい?」
「いいわよ」

程なくして隣から穏やかな寝息が聞こえ始めた。

5/3/2024, 11:55:37 PM