『君が隠した鍵』
思い出せない記憶がある。
ずっとずっと昔の事だ。
子供の頃、両親が死んだ。
…………らしい。
実のところ、自分はそれをよく知らない。
どうにも記憶が失われているようなのだ。
いわゆる、記憶喪失、ってやつ?
ただ、断片的に思い出せるものはある。
遠くから鳴り響く鬼の怒号。
痛いほど強く腕を掴んで俺を逃がそうとする、同じ背丈ほどの後ろ姿。
真っ赤な血の池に沈む二人の男女の大人達。
“あなたはいきて”ぜったいだよ。と涙を流しながら、閉ざされる視界。
誰なんだろう――君は。
明らかに、両親ではない人物が混じって居る。
だが、周囲の人からは、知らないとの声しかない。
だから、だから。
自分は“ココ”に戻ってきた。
今はもう更地になった我が家。
そして、その庭から続く……裏山への道。
小さい頃は大冒険だった藪の森が、今はあんなにも低く見える。
急な斜面が、なだらかな坂で。
そして、あのとき隠れた暗い暗い穴の中は、本当に小さな小さな動物の巣みたいな狭さしかなかった。
でも、自分はそこで見た。
ぼろぼろに擦り切れた、小学生の名札を。
消えかかったインク、だがかろうじて読める文字。
それを認識した瞬間だった。
――君が隠した記憶の鍵が、解けた。
ああ、そうだ。
そうだった。
全てを思い出した。何があったのか、を。
そして俺は、こぶしを固く握りしめて唇を強く噛んだ。
ここに来たら、全てが終わると思っていた。
……とんでもない間違いだ。
この事件は、まだ終わっていない。
まだ、鬼は退治されていないのだ。
「君の無念を、必ず晴らすよ」
一陣の風が吹いた。
思わず目を瞑る。
“がんばって”そう言ってくれているような気がした。
こくりと頷いて、その場を後にした。
次にくるときは、花束といい報告を持ってこよう。
……もちろん、君が好きだったウサギリンゴも携えて。
続かない
おわり
11/25/2025, 2:59:33 AM