三上優記

Open App

「ぬーさん! 来たで~!」
 思わぬ来客にぬーさんは目を丸くした。最近会っていなかったけれど、少しやつれた気がする。やっぱり、かっちのこと、堪えてるんやろな。
「たけぽん……どうして、仕事は……」
「そんなのええから。ほい、お土産。京都の美味しい抹茶屋さんで買ってきたんやで!」
 戸惑う彼にお土産を押しつけ、家に上がりこむ。抵抗するでもなく、ツッコミの1つもなく、彼は黙ってそれを見ていた。
「来るとは言ってたけど、まさかほんとに来るなんて」
「僕がそないな嘘つくと思うたん? もー、付き合い長いんならわかるやろ、そのくらいー」
「だって君今度行くのは海外だって」
「友達が大変な時ならこのくらい当然やろ」
 そう言うと、ぬーさんは何か言いかけていた口を噤んだ。やっぱりそやろなぁ。
「だって、明らか元気ないやん、ぬーさん。……アカン状態なのはわかるけど、ずっと家の中引きこもってても栓ないで」
 分かってるけど、と反論する声もどこか覇気がない。
「だー、もう、ほな行くで! 支度しいな!」
「行くって……どこへ?」
「どこでもええやろ、遊べるとこなら。こーゆー時こそ楽しまんとアカンで」
 無理矢理ぬーさんを連れ出した。とりあえず近くの映画館に連れていって、映画を見せる。分かりやすくて楽しいアクション映画。ぬーさんの好みっていうよりかはかっちの好みっぽいけど……まぁええか。今はこのくらいがええやろ。

「楽しかった?」
「え、うん。まぁ……。ありがとね、たけぽん」
「そんなのええて。困った時はお互い様やろ」
 街灯に照らされてその顔に少し笑みがさした。良かった。ちょっとは元気出たかな。
「ごめんね。元気出さないといけないのは分かってるんだけど……。たけぽんは本当、いつも明るいね。君だけはずっと、昔のままだ」
「そやね。だって僕は多分一生子どものまんまなんや」
「そうかな? 全部そうだとは思わないけど」
「というかそういうようにしてるんや」
 ぬーさんが顔を上げてこちらを見た。
「辛いことも生きてると沢山あるし、純粋に目の前のことに感動したり、喜んだりすることって、どうしても少なくなるやん」
 かっちがいなくなって辛くないといったら、もちろん嘘や。幼馴染と失ったんやから、今もすっごく辛い。
「でも子どもみたいに、生きること、目の前にあることを楽しみたいんや。そうやって生きてる人から生み出したものならきっとおもろいものになるやろ? そう信じてるんや」
 心で泣いてても、顔は笑っていたい。どこかに楽しいことを持ったままでいたい。それなら明日も歩いて行ける。そう信じてるんや。
「君は強いね」
「そんなことないで。皆できることや」
 ぬーさんも、ね。
「ありがとう」
「今は無理でも、ちょっとずつ笑ってってくれな、ぬーさん」
 そうやって、少しずつでええから。
 

5/13/2023, 9:33:26 AM