君子豹変す、とは言うが改心と掌返しとの間には紙一重の差しかない。この人は我が道を突き進んでいるように見せかけて、その実常に自らを省みて思考し続ける人だ。紙一枚を慎重に見極め踏み外さないのである。それでも時には、真っ直ぐな心根が揺さぶられて濁ることもある。表情は消えて言葉も失せ、思考の泥沼に嵌ってしまう。こうなると助け舟も出せないのだが、かといって手は離したくない。「あなたが決めたことなら自分は何も言わない」とだけ告げて、迷う目をじっと見る。それだけのことだが、この人の中で何かが定まるらしい。唐突にパチンと晴れて透き通り、泥沼から脱出する。正直一緒に沈むならそれでもいいのだが、決まって明るい場所に引き上げられるのだからこの人には敵わない。何故か毎回嬉しがって自分の体が物理的に抱き抱えられ持ち上げられ振り回されるが、この際気にしないこととする。
(題:透明)
5/22/2024, 8:43:08 AM