田中 うろこ

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『bye bye…』

「ほんじゃすいません、ありがとうございます」
「気ぃつけて帰れよ」
今日も仕事が終わる。肉団子のような体型でチャキチャキ早足で帰るものだから面白くて仕方がない。スーツケースをガタガタ鳴らしている。
机の上に散らばった書類の山を片付け、端に寄せる。すると何やら見覚えのあるものが。
「これ……アイツのスマホやん……」
電話をしようにもしようがない。どうせ明日も来るのだろうから、とりあえず置いておくのが吉か。ともあれ自分ももう少し残っている作業があるので、もう1時間残る。

「すんません!!俺スマホ忘れましたよね!!」
「おう、気ぃつけて帰れよ」
おおよそ二十分後、会社のインターホンに見慣れた顔が映る。すぐそこにあったスマホを渡してすぐにドアを閉じる。
何か引っかかる感触があった。

「これ……あいつのスーツケースやない?」
たしかにいつもはリュックだけだし、今日もリュックは背負っていたから、忘れていくのも無理はない。無理こそない。アホかアイツ。

「すんません!!! 」
「気ぃつけ〜」
今度は五分と持たずに帰ってきた。さすがに失ったものの大きさには気がついたのか、額には脂汗が滲んでいる。いかにもオイリー。

「あれ、もしかして真田さん残業ですか?」
「ああ、ここだけや。頼まれてな。ちょうどええわ、お前手伝え。お礼もしたるから。」
「ほんまですか? じゃあ手伝ったりますわ」
謎に偉そうなのがこの丸太坊主の特徴である。しかしまあ、わかる仕事ならそこそこ早いのが腹立つ。わからん仕事覚えるのはクソほど時間かかるけどな。

「おお、早く終わった。あんがと」
「いやいや。ところで、お礼ってのは?」
「お前が忘れ物してへんか心配やから一緒に帰ったるわ、喜べ丸太坊主」
「どこがお礼やねん!!」

そうして、今度は俺が電車の定期券を忘れて、結局予定通り残業した時と同じ帰宅時間になってしまったとさ。全部あの丸太坊主のせいである。

3/22/2025, 10:04:29 AM