ミミッキュ

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"上手くいかなくたっていい"

「…気分かぁ、それなら──。」
と、少し考え込む"フリ"をして答える。
「つっても、んなの急に聞かれても出てこねぇよ。」
そう言ってブレイブを見る。と、視線がかち合う。少し顔を顰めてこちらを見ていた。…俺、なんか気に触る事言っちまったか?
「…んだよ、その顔。言いたい事あんなら言えよ。」
恐る恐る聞くと明らかに不満そうな声で
「それはこちらの台詞だ。」
と言われた。意味が分からず「はぁ?」と思わず聞き返した。
「さっき、考える"フリ"をしていただろ。面倒くさいから、と。」
「っ…。」
図星を突かれて声にならない声が声帯を揺らして短く呻き声の様な声を口の中で転がす。それを聞き逃さなかったのか「やっぱり」と言いたげに肩を落とした。
「…けどよ、俺の性格知ってんだろ?食えれば何でもいいから別に聞かなくても──。」
言い返すと食い気味に
「確かにそうだ。だが、苦手な味覚くらいはあるだろ。俺はそれを聞きたいんだ。」
と、言われた。苦手な味覚…そう言われれば、そんな事考えた事なかった、いやむしろそんな事を考えている暇など無かった時が多かった。だから店に行けば大体目に付いたものの中からテキトーに選んだり昼休憩とか家にいる時とか基本は栄養補助食品で済ませたりしていて、味についてはいつも頭に無かった。
「苦手な…。…聞かれたって分かんねぇよ。今まで、んな事考えて選んだ事ねぇし。それに…、苦手なんだよ、そういうの。上手く言えねぇから。」
そう素直に言うと
「上手く言おうとしなくていい。箇条書きな言い方でも構わない。ゆっくり、貴方のペースで伝えて欲しい。貴方の、恋人の嫌がる事はしたくないからな。」
なんて柔らかな声色と表情で言われた。そう言われると、なんだかむず痒くて顔を逸らしながら「そうかよ」と消え入る様な声で返すと「あぁ」と言い、言葉を続けた。
「だから教えて欲しい。貴方が"苦手だ"、"嫌だ"と思った味覚はなんだ?」
改めて聞かれ、今度はちゃんと考え込んで記憶を辿りながら答える。
「…苦手、じゃねぇけど…。あんまり甘かったりしょっぱかったりすんのは、ちょっと…何ていうか、食うのが辛かった、かも…。」
ポツポツと答えると、相槌を打ちながら聞いて言い終わると嬉しそうに頷いた。
「あぁ、承知した。答えてくれて感謝する。」
礼を言われて「お、おう」と答える。
「なら…和食か、パン類か。」
と、呟いて顎に手を当てて考え込む。ここからの距離と、俺が答えた苦手な味覚を元に候補を絞っているのだろう。確かにコイツなら、俺なんかよりこの辺の地理にずっと詳しい。詳しいのはスイーツの事だけじゃねぇんだなぁ、とちょっと思ったりして思考の邪魔をしない様に小さく笑った。
「…なんだ?」
やべ、バレたか?
「んや、別に。」
と、ちょっと誤魔化す。
「そうか。…それより、条件に合う店を見つけたから着いて来い。」
下手に誤魔化したので拾われると思ったが、スルーされたのでちょっと胸を撫で下ろす。
「おぉ、分かった。」
そう返すとブレイブが方向を変えて歩みだし、俺も同じ方向を向いてブレイブの1歩後ろを歩く。
「んで、どこ行くんだ?」
「うどん屋だ。今から行く店のは、麺の固さが程よく出汁が美味い。」
「ほぉ、そりゃ楽しみだな。」
お前と一緒なら、どこへだって構わないって、そう思ってたのに。ブレイブはそう思って無かった。俺を、大切に思ってくれてるんだな、って思うと恥ずかしくて照れるというか、凄く嬉しいというか…。なんだか柄にもなく浮き足立ってしまいそう。
俺も、目の前を歩く恋人の事を、ゆっくりと知っていきたい。

8/9/2023, 1:46:37 PM