日々家

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Love you
(花束の二人のその後)


何回目かの春を迎え、桜の花があちらこちらで咲き誇る。俺は片手に一輪の花束を持って、いつもより朝早くあの人の所へ向かう。
――きっともうそろそろ出かけるはずだ。この誰の目もない時間が勝負だ。
俺はチャイムに指を伸ばした。しかし、それより先に扉が開く。

「あ、はる。おはよう。どうしたの?」 

ちょうど良いタイミングでなつちゃんが家から出てきた。俺は内心驚いたが、気持ちを落ち着かせて挨拶を返す。

「おはよう。なつちゃんに渡しておきたいものがあったからさ」

今日、なつちゃんは学校を卒業してしまう。一つ上だから仕方ない話だが、いつも追いかける身としては辛いものがある。
ガキだった俺も成長し、今ではなつちゃんの身長を超えて声だって変わった。あえて、“なつ姉ちゃん”から“なつちゃん”に呼び方を変え、頼れる人間になる為に勉強もスポーツも努力して上位に食い込めるようになった。

しかし相変わらず彼女は、俺を近所の弟みたいな子として見ている。
ひらりと俺の想いをかわす彼女は、周りで舞い散る桜の花びらみたいだ。
でも、何でそうするのかは何となく分かっている。
だから今日、どんな結果になろうとも俺はこの曖昧な関係に終止符を打つ。

「はい、卒業おめでとう」
「わあ、ありがとう。綺麗に咲いたチューリップだね」
「それと――」
「うん?」

心臓がうるさいくらいに鳴っている。きっと俺もどこかでこの曖昧さに安心していたんだ。だから、次の言葉を口にするのが恐ろしい。
でも、本気だと伝えられないまま“近所の弟みたいな子”でいるのは嫌だった。

「俺はなつちゃんが好きです」

なつちゃんの表情が変わる。柔らかい笑顔が困ったような笑顔に変わる。俺は彼女が何か言う前に口を開く。

「なつちゃん、怖いんだろ」
「えっ」
「自分が居ない一年の間に俺が心変わりするかもしれないから、“私も好きだよ、弟みたいで”とか言ってかわすんだろ」

図星だったようでなつちゃんは目を見開いた。

「ハッキリ言っとく。ガキの頃に勉強教えてくれてた時からなつちゃんが好きだった俺はこれからも変わらない。なつちゃんだけが好きだ」
「はる……」
「だから、受けとって下さい」

なつちゃんに赤いチューリップを差し出す。綺麗にラッピングしてこの日のために用意した俺の気持ち。
ガキの頃に公園で摘んで必死にリボンを巻いたたんぽぽの花束を渡した時と同じように、下を向いたまま差し出している。
受け取る感触が直ぐに伝わらず、駄目かと思った瞬間――。

「はるはいつも真っ直ぐ私を見てくれていたのにね」

俺の手から一輪の花束がなくなった。

「私も好きだよ」

顔を上げるとなつちゃんは泣いていた。「今まではぐらかしてごめん」と言う彼女を俺は抱きしめた。

「いいよ。それでも俺は、なつちゃんが好きなままだったから」

腕の中の彼女が、苦しさで潰れないように俺はできるだけ優しく抱きしめ続けた。


                        日々家

2/23/2024, 11:40:33 AM