安達 リョウ

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誰にも言えない秘密(罪滅ぼし)


「………あんた、いつもここにいるのね」

不意に声をかけられて、ん?と顔を上げると、柵に背を預けた女が自分に好奇の目を向けていた。
―――ここはビルの屋上。
柵を越えて頼りない足場に腰かける風を装うのが俺の日常だ。

「そう言う君は、ここには何の目的で?」
「別に何の用もないわ。ふらっと寄ってみたらまたあんたが見えたから、暇つぶしに来ただけ」
「ここは俺の縄張りみたいなものでね」
ポケットからタバコを取り出し、俺はそれに火を付ける。
「地縛霊になっちゃったの? 可哀想に」
可哀想、と言う口調に同情の色は見えない。
ほんとに好奇心で来たんだな、と煙をくゆらせながら俺は笑った。

「そう言う君は? 死神かはたまた天使様か」
「ぶー、ハズレ」
舌を出し、大きく胸にバッテンを作るあたり歳のわりに古い人間なのかもしれない。いや、“だった”と言うべきか。

「ずっと守護霊だったんだけどさ、主が天に召されちゃって。今はただの浮遊霊中」
「新たな主、募集中♪みたいに言うね」
「いやもう疲れたからさ、………暫く守護霊はいいかな」
―――遠くを見る目が、多くは語るまいと憂いを漂わせる。

「その主は寿命で?」
「そ。立派にお努め果たして、今は多分転生準備中だと思う。………わたしと違ってね」
そっか、と俺は深く追求せず素っ気なさを装った。
今となってはそれを深追いしたところで、どうとなるものでもない。

「で、そっちはどういう理由でここにいるわけ?」
「うーん。秘密」
「ええ、ここにきてそれ!?」
ははは、と彼は面白そうに笑うとタバコを咥え直した。
「………正直どうにも忘れてしまってね。もう思い出せないんだけど、この場所に何かあるんだろうね」

一年ごとに遡って辿れる過去も、
一年ごとに見据えられる未来も、

きっと俺にもあったのだろうと―――想像するだけ。

「羨ましいよ、君が」
「あら。慰めてほしい?」

「………遠慮しときます」

―――澄んだ青空に煙を吐いて。

もうここに誰も来ることがないように、と願いながら
彼は今日もそこで足を組み街を見下ろしている。


END.

※5/25「あの頃の私へ」より派生

6/6/2024, 2:35:14 AM