信号
歌が上手くなった。 なんとなく録音してみたことがきっかけだった。あまりに酷いものだからいっそ面白くて、研究してみようと思った。カラオケのキーを変えるということを初めてした。歌いやすくなってびっくりした。滑舌が悪い音があるなとか、ここの癖うざいなとか、ここひでぇなとか。そこを一つ一つ潰していく。でも好きな癖は残して。そうやって歌っていく。前より幾分か歌うのが楽しくなった。調子に乗るとまた変な歌い方してるから、また研究して。綺麗に歌えるように。赤の他人の声に聞こえるから、不思議と恥ずかしさはない。誰かをプロデュースしている気分で録音を聞いて修正点をメモして、それを歌うときの自分が見る。二人三脚。
信号を見てる。 青に変わる瞬間を考えてる。みんなじっとしてた。片足でリズムを刻む。足りなくて肩を揺らす。頭が揺れてる。きっとメトロノーム。出遅れてる。横断歩道に乗り上げて考える。誰か突っ込んでこないかなって。今しか見えない向こうの景色を見てる。
元気になった。 よく笑って、よく食べて、よく出歩いて、よく買い物をして。皆が私を見てにっこりする。調子がいい、こんなに物事を前向きに受け止められる、考えられる、元気になってる。普通の日常を歩んでる。
3時間ぶっ通しカラオケをした。すごく楽しかった。数週間の間にいろんな人と色んなところに行った。すごく楽しかった。ふらっと隣町のショッピングモールへも行った、カフェへも行った。ふらっと何度も郵便局に行って発送もしてきた。こんなに回復してきてるみたい。みたい?みたい?みたい?みたい?みたい?みたい????
泣き叫んだ。 喉が震えるほど泣き叫んだ。「ぶっ殺してやる」「のうのうと生きやがって」って誰かを呪ってた。「ヘラヘラしやがって」「使えねぇな」取り繕ってる自分に。「なんの効果もねぇじゃねぇか」「役に立たねぇな」「なんだよそれ」薬に対して、診察時の自分に対して。
相変わらずだと思った。それどころか昔よりもっとおかしくなってるんじゃないかって。本当に良くなってきてるはずなら、こんなに泣き叫ぶわけないじゃないか。
高所恐怖症になった。 50m下へぐちゃりと押しつぶされるんだろうか。それを願ってここまで来たのに。何を当たり前なことを。まあるい夕日が赤信号みたいだった。待ってた。青信号になるのを。じっとできなくて片足が揺れる。上半身が揺れる。「赤ん坊の人生に幸多からんことを」。スマホをギュッと握りしめて覚悟を決めた。気がする。
上手に書けなくなっちゃった。脳みそ、壊れちゃった。
9/5/2025, 4:49:18 PM