雨に佇む
学校帰りのバスの中。
僕は一番後ろの席に座り、スマホを片手にイヤホンで音楽を聴いていた。
突然雨が降り出したせいで、バスの中は満員状態だった。最悪だ、もうすぐ降りるのに。
小さくため息を一つつき、僕は窓の外を眺めた。
雨の音とひんやり冷えた空気が心地いい。
運転手さんのアナウンスは次のバス停にもうすぐつく事を知らせた。
僕はこれ以上乗らないでほしい、という想いで窓からバス停を覗き込んだ。
瞬間、僕の心は冷たくドキリ。
自分でも鼓動が速くなっているのがわかる。
「…え。」まさか、そんな事があるわけがない。
バス停には、三ヶ月前に亡くなった彼女が立っていた。
あの日と同じ服装で、髪型で。
雨の中で佇んでいたせいか全身が濡れていて、長い黒髪が顔や肩に張り付いていた。
その彼女の姿に、僕は居ても立っても居られなくなり急いで降車ボタンを押し、人を押し除けバスを降りようとした。
しかし、他にも降りる人が数名いたらしく、一番後ろに座った数十分前の自分を恨んだ。
やっとの事で降り、彼女を探すが見当たらない。
「綾乃!」
もう呼ぶ事のないと思っていた名前を叫び、僕はしばらく雨の雫を全身で受けていた。
__その日から僕は、雨の日には必ず一旦、あそこのバス停に降りている。君ともう一度ちゃんと話がしたい。
だって、あの時の君が笑顔で泣いている様に見えたから。
だから今日も、僕はあの時間、雨の日にあのバスに乗る。
君にさす傘とハンカチを手に持って。
いつか彼女にもう一度会える事を信じて。
8/27/2024, 12:42:59 PM