常に最悪のケースを想定して行動することだ。
著名人の講演が終わると、案の定、隣席のお前はいつになくキリッとした顔をしていた。とにかく感化されやすいコイツは、今必死になって最悪のケースとは何かを考えているに違いなかった。
空が落ちてきたらどうしよう、とかバカなことを言ったらはたいてやろう。そう思いつつ、なあと声を掛けると、お前はハッとして身構えた。
「……どうした?」
「なんか、はたかれる気がした!」
「はたかねぇよ」
「帽子被っとこ」
「何でだよ」
「ふっふっふ。私は常に最悪のケースを想定して行動するのだよ。__あだっ!」
額を抑えるお前にはため息が出る。
駄目だコイツは。危なっかしくて放っておけない。
一体いつまで付き添えばいいのか。詐欺に遭ったりしたら目も当てられない。少しは学習してほしい。
呆れる俺。額をさすって楽しげなお前。
俺はゆっくりと諦めの境地に向かっている。
6/7/2023, 9:34:19 AM