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僕の世界は突然、色を失った。
理由はなんだっただろうか。今となっては思い出すことさえ億劫で、考えることはやめている。
だが、毎日同じ景色というのも退屈だ。皆からは美しいと言われるステンドガラスも、僕には全て同じ色に見えて何も感じられない。空の色も建物の色も見えるもの全てが同じ。一時期は気が狂いそうになった。
孤独と恐怖の世界に一人だけ取り残されたのだと神様を恨んだことさえある。どうして僕が。そう何度も何度も問いかけては答えを貰えない日々を過ごした。

そんな僕にも、友達はいる。
一人は少し厳しいが根は優しい子、もう一人は男勝りな所がある勇敢な子でどちらも女の子だ。二人はよく僕の家に来ては、世話を焼いて出ていく。両親のいない僕に気を使っているのか、家に来た時は今日あった出来事などを話しながら身の回りのものを片付けていた。別に僕が片付けをしていないわけでは無いのだけど、彼女達が掃除するといつも以上に床がピカピカに輝いているから好きにさせてもらっている。
一度、どうして僕に世話を焼くのかを聞いた時、彼女達はこう言った。
「貴方、今にも死にそうな顔していること。気づいてないの?」
どうやら僕の見張りのために家に来ているようで、彼女達は呆れたようにため息をつくと買ってきた和菓子を僕に押し付けた。これで元気を出せということか。
キッチンに向かう二人を眺めながら、リビングのソファに座りテレビをつける。面白そうなテレビがやっているかと思ったが、そんなことはなく直ぐに消した。
和菓子を食べるのにフォークが欲しい。
立ち上がってキッチンの方へ向かい二人に声をかけようとした時、二人の会話に思わず進めていた歩を止めた。
「そういえば、貴方の目綺麗な琥珀色をしてるわよね。昔から思ってたけど、その目だけは褒めてもいいわ。」
「その目だけってなんだよ。私にだって他にいい所あるだろ。てか、目だけならお前も綺麗だぞ?」
「そう?日本の伝統的な色だと思うけど。」
「確かにそうだけど、茶色に他の色が混ざってるって言うか…とにかく綺麗な目をしてる。」
「ふーん。」
二人からしたらなんてことない会話なのだろう。それでも、僕の中ではその会話が脳に焼き付いたように離れなくなっていた。目の色、綺麗、琥珀、茶色。琥珀色ってどんな感じだっけ、どんな色をしてるんだっけ、茶色ってなんだ?茶の色すら覚えてないのに。
もう、色は見えないのに。

僕はその日、色を失ってから初めて、再び色を知りたいと思った。

4/18/2023, 1:20:32 PM