小さい頃、私は、秘密基地を作ったりとか、森の探索とか、小さな冒険が好きな、家にいる時間よりも外を駆け回っている時間がずっと多い子供だった。
小学校が終わると、すぐに学校を出て、ランドセルを家にぽいっと投げて、作り途中の秘密基地の続きを作りに行く。
そんな私には、一緒に冒険をする相棒がいた。
彼は私より1つ年上だった。彼は私より物知りで、足も速かった。二人で山に入って、秘密基地で持ち寄ったお菓子を食べながら他愛ない話をしたり、全力で鬼ごっこをしたり、長い時間を二人で過ごした。
でも、ある日。
熊が出るから、という理由で山が立ち入り禁止になった。まだ読みかけの漫画やお菓子は置いたままだったけれど、そんなことはどうでもよかった。
もう、あの秘密基地には行けない。
それから、色んなところをまた彼と探索したけれど、彼が「つまらない」と言って以来、一緒に冒険することはなくなった。
それから、5年が経ち、私たちは中学生になった。
彼は、昔のように森を駆けるのではなく、陸上の選手としてトラックを走っている。私はと言うと、美術部に入り絵を描く毎日で、彼とはほとんど話さない。
全部、あの山に入れなくなってから始まったことだ。なんて、恨めしく思ったこともあったけれど、きっとあのまま山が封鎖されなくても、今の状況は変わっていない。きっと、他の理由でもうあの秘密基地には行かなくなっていただろう。時間というのは、環境や人の時間を簡単に変えてしまう。それが少し、寂しくもあった。
それから、15年。
私たちは成人し、社会人として忙しく働く毎日で、小学校時代の同級生とは、随分と疎遠になっていた。
そんなある日、会社の取引先を訪れると、「彼」が居た。彼はすぐに私に気づき、会議の後、懐かしいねと声をかけてくれた。
それから、馴染みの居酒屋を教えがてくれて、二人で行くことになった。そこで、色んな話をした。昔、二人で秘密基地を作ったこと。山が閉鎖してしまったこと。置きっぱなしだった漫画のこと。
たくさん話して、たくさん笑った。
あっという間に時間はすぎ、終電の時間が近づいた。
「じゃあ、またね」
「うん。…ねぇ、」
私は、冒険が好きだった。でも、それ以上に────。
口を開きかけた時、手を挙げた彼の左手の薬指に、きらりと光るものが見えた。
「…やっぱり、なんでもない。バイバイ」
手をおろして、彼に背を向けて歩き出す。
私はやろうと思えばいつだって彼とまた森を駆け回ることが出来るような気がしていた。
でも、もうあの時には、2人の冒険は終わっていたのだということが、今更わかった気がした。
これからは、駆け回ることは出来なくても、ちゃんと一人で歩いていく。
7/11/2025, 9:10:11 AM