眠れないほど面白い本を見つけてきた。
しかし、辞書のようにとても分厚くて、誰もが鈍器のような何かだと思う程度に重たい。
読了するには時間的効率が悪いので、こういうのは、YouTubeの動画のように、誰かに要約してもらうに限る。
「そうだ! 近所の池に超絶暇そうな浮浪者がいたじゃねーか」
鈍器のような本を引きずって、近所の公園に出向いた。
まるで死体遺棄でもするかのように、その本を池に捨てた。
すると、どこかの定番ストーリーをなぞった。
池から自称女神が出てきた。
「あなたが落としたのは、この面白い本ですか?
それとも眠れないほど面白い本ですか?」
「ふむ……」
などとしばし選択に迷う素振りをしてから、
「面白い本と言われてもな、世の中面白い本なんていくらでもあるからな」
といった。自称女神の目つきが悪くなる。
「本の装丁や表紙の色で見分けがつくかと思いますが」
「しかしなあ、見た目だけでは本というのはわからないものなのだよ。物語とはね、文字情報の住処みたいなものなのさ。そんな風に見せたところで、オレにはどちらがどっちなのか、見当もつかないのだよ――そうだ!」
と、わざとらしい提案をした。
「それぞれあらすじを言ってくれないかな。そうしたら、どちらがオレが落としたものか分かるだろう」
「人間の分際で女神に要約を頼むとは……。なんと愚かしい浅知恵。まあ、いいでしょう」
女神はパラパラと斜め読みした。時間はパラパラマンガのように数秒である。
どうやら俺が持ってきた分厚い本はミステリー小説のようだ。若い女が不審な死を遂げて、その事件は未解決事件になった。
しかし、時効が成立する三日前に、一隻のクルーズ船が日本海に飛び出した。そこで人が殺される……。
「寝るほどつまんなそうだ」
オレは女神のそばにあった本をふんだくることにした。
「なっお前! それは私の……」
「悪いが、俺の持ってきた本はつまんなそうだからさ、もう一つの本にするわ。こっちは薄い本だし、なんてったって「面白い本」っていうタイトルだからな」
女神のコレクションを強奪したオレは家に帰った。
その本は3日くらいかけて丁寧に読んだ。
嘆きの女神になったらしく、その数日は大洪水時代になったようだが、関係がない。ノアの箱舟のような沈まぬタワマンの最上階にいるのだ。
12/6/2024, 9:23:09 AM