駄作製造機

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【光と闇の狭間で】

『お願いです!通してください!お願い!』
『残念ながら、ここから出すことはできない。』

長い髪を振り乱しながら一心不乱に乞う女と、彼女の前に薙刀を交差させとうせんぼしている門番2人。

『諦めろ。お前らはここから先へは行けない。ここからは神の仰られる域だ。』

厳しい声色で女を押し返す門番。

女は尚も乞いながら縋り付いてくるが、右の門番が薙刀の石突きという刃がついていない方で女を押したため、女は呆気なく下へと落ちていった。

ここは、死後の世界。
天国と地獄の狭間にある、境界門だ。

『、、ここのところ罪人が多いですね。』

落ちていった女を見るために下を覗き込んだ俺は、俺の右に立っている先輩に話しかける。

『ああ。ちょうど、下界は"夏"という季節だ。此処も暑いな。罪人が増えるのも頷ける。』

どうやら、夏は事件が起こりやすく、死亡者も、死刑者も多いらしい。

元々、天界と下界の途中の世界で生まれた俺は、下界は"人間"という人達が住んでいて、そこには心が綺麗な人も、汚い人もいると習った。

人間には寿命があることも。
心が綺麗な人が死んだら天界へ導くことも。
下界で大罪を犯した人間は地獄で捌いてもらうことも。

全てを理解している。

でも、門番という職に就いている俺から見たら、下界の人間も、俺達と変わらないのかなと思う。

ただ、悪いことをした人と、いいことをした人にわけているだけで。

『おい、ボサっとしてんな。這い上がって扉開けられるぞ。』

バシッと柄で頭を軽く叩かれ、我に帰る。

『さ、さーせん、、』

改めて顔をキリッと引き締め、俺は目の前に集中する。

天界と地獄は長い長い階段で繋がっていて、その階段の途中にある浮いた島が、俺達下っ端の奴らが育つ境界と言われる世界。そこからずーっと下は、地獄。

門はその地獄と天界の間にあり、ギリギリ地獄の気候が届かない、本当にギリギリのところにある。

門番は、地獄から来る天界に行きたいと這い上がってくる地獄の住人を突き落とすのが仕事。

かなりエグいことしてるけれど、この人間達も下界で罪を犯して死んだやつらだ。

慈悲はない。なくていい。

でも、、

突き落とした時の、落ちていく罪人の顔が、悲痛に歪んでいて見ていられなくなる。

門番は意外と辛い仕事だ。
先輩はもうベテランだから仕事をしている時は無心だ。

前聞いたら、『こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。』って言われた。

先輩曰く、地獄側に加担してしまうと、魔物に引き摺り込まれてしまうらしい。

だから俺も無心になって仕事をする様に心がけている。
引き摺り込まれたくはないからな。

ーー

ある日。

また、いつもの様に這い上がってくる罪人を突き落としていたら、

『よいしょ、、よいしょ、、』

小さな女の子が来た。
俺は女の子が来た途端に拍子抜けした。

こんな小さな子供が、地獄にいることにも驚いた。
何より、罪を犯して死んだことにも。

『、、、』

先輩は別の人を突き落とすのに夢中でこっちに気付いてない。

ちょっとくらいなら。

『君、ここから先は天界だよ。間違って迷い込んだのなら、天界入場証を見せてくれないかな。』

女の子は戸惑った顔をして、来ていたボロボロの服の裾を手が震えるくらい握りしめていた。

『あの、真夜は悪い子なの。だから、、下でいい。』

、、、自ら地獄に、、

『あっちの世界では、君はどんなことをしたの?』
『真夜、お母さんにいい子しててねって、言われた。けど、、いい子じゃなかったから、、』

女の子の足をよく見てみると、無数のアザがあった。

嗚呼、この子は、、
虐待児だ。下界にいるという、自分の子供に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする大罪人の子供だ。

『、、、真夜が、悪いから、、王様に此処にいさせてって言った。』
『っ、、』

俺は声が出なかった。
可哀想。とも思った。だけれど、、

"こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。"

先輩の声が蘇って、、頭がぐちゃぐちゃになる。

『、、真夜、下に戻りたい。』
『ど、どうして、登ってきたの?』

声を振り絞ってできるだけ優しく問う。
女の子は言った。

『王様が、上に登ったら地獄があるからって。』

嗚呼、閻魔大王様。確かに此処は地獄です。
俺は精神的にキツいです。

どっちだろう。

俺は今、どちらを守るべきだろう。
純粋無垢な虐待児か、天界の鉄則か。

"こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。"
"真夜が、悪いの。"
"いいか!門番候補!大罪人に肩入れし者、それ同罪とみなす!それをしっかり覚えておけ!"

いろんな、いろんな人の言葉が頭の中でグルグル周り回って、、

ドンッ

俺は女の子を下へと落とした。
女の子は驚きもしない、普通の顔だった。

でも、押した瞬間、

『ありがとう。真夜、お母さんと一緒にいるんだ。』

と呟いた。

『、、、、、ごめんなぁ、、真夜ちゃん。』

俺は今日も、光と闇の狭間で、揺れる。
門番は、本当にキツイ仕事だ。

12/2/2023, 11:33:33 AM