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夏休みに本を借りにくる酔狂な学生など
じぶんくらいだろうと思っていたあの日

夏のおわりを口遊みながら階段を駆け上がって
古い木製のドアを開けようとしたら
後ろから生えてきた腕が先に開いた

驚いて振り向こうとしたら
やめておいてくれる?と頭上から声がする

揶揄うような穏やかな声
柑橘シャーベットの匂い

その歌は反戦歌だって知ってる?
って前にあたしに話しかけたあの声だ

まだ成仏してないんですか?と思いながら
今度は何の本の話がしたくて出てきました?と
前を向いたまま本棚をうろうろ

この本かな、と
本棚から引き抜いた文庫本に
ベタですね と笑う

彼がスパークルを歌いはじめる
(夢と知りせば覚めざらましを)




8/12/2025, 12:38:42 PM