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彼は駆け抜けた。
ただがむしゃらに、
振り返る事もなく、
只管目の前をはしって。はしって。はしって。

そうして見上げた景色は
彼の手に入れたかったものではなく
雨でつまずいた弾みに転げ堕ちてしまった

その姿を見て
誰かが嗤う
誰かが呆れる
誰かが同情する

何の為にはしり続けたか。
何の為に振り返らなかったのか。
何の為にこんなところまでやってきたのか。

そうして最後に口を揃えて
「何をしたかったんだ」と詰ってくる。

疲れたろ?
羽を休めりゃいいのさ
静かに眠って仕舞えばいい。


ああ、でも


それでも彼はー


中天に輝く、その光を

世界を照らす、ひとりぼっちのその星へ


行ってみたいと。思ってしまったのだから。


駆ける。駆ける。駆ける。
空を駆ける。ただただ駆ける。
遠く届かない場所だって知ってるさ

そうだとしても
ひとり世界を照らすその光に、
「寂しくないの」と聞きたくなったから

奔る。奔る。奔る。
最早意味なんてないだろう。
理由なんて後付けで羽だってボロボロさ

きっと生まれた時
自分を照らしたその「陽光」に
一目で恋に堕ちちゃったからさ

仕方ないだろう?




9/25/2022, 4:59:33 PM