空白む雨

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星空の下で

 書類作成を終えたのは、夜が更けてからだった。
 癒月は手前の和窓を開ける。外からの涼やかな風が吹き込み、彼の体を冷やしていく。
 ここのところ体の具合が良くなかった癒月は、普段は余裕を持って提出する書類を中々に手につけることが出来ていなかったのだ。
 夜遅くなるのは良いことではないのを分かってはいるが、少しでも遅れた分を取り戻すために誰にも分からぬように作業をしている。
「あ、星だ」
 癒月の紫水晶の瞳に映るのは、所々に輝きを放っている大小様々な光と弓張月。
 夜に起きていられるのが稀なせいか、癒月はこの場所から見る星や月の綺麗さを知らなかった。
 少し魅入っていたが、やがて癒月は視線を下へと移動していく。
「この星空を、……あの子と一緒に見てみたかったな」
 癒月は目を閉じる。かつて居た場所を思い出す。四方が白い壁に覆われ、天井もまた白い。星空どころか青空も見ることが出来なかった。
「綺麗だって、教えれたらいいのに」
 もう癒月はあそこに戻ることはない。まともに別れも言えずに此処へ来た。
 既に不良品となった少年には、知識や体力を与えられる代わりに、青空や星空を得た。
――また、会いたいな。今度は星空の下で
 癒月は和窓をそっと閉じる。
 もう、星空は見えなかった。

4/5/2026, 2:31:06 PM