へるめす

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独り暮らし始めてつくづく感じるけど、郵便受けに入ってる訳の分からないダイレクトメールとかチラシって鬱陶しいよね。クラスメートである彼女は食事を口に運びながらそんな風に言った。
わたしも――きみも彼女の言葉に同意しながら、思い出したように次のように言った。そう言えば、この間、変なチラシが入ってたんだよね。何それ?彼女はサンドイッチを食べていた手を止めて、きみの顔を見つめる。
きみはその不審なチラシに関して大要を告げた。
曰く、差出人には名前は無く、大きな文字で「「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった人はいませんか?」とある。それから、あなたに代わってお礼を伝えることが出来るとか、世界の裏側がどうとか、上位次元がどうとかいった如何にも胡散臭い言辞が列んでいる。そして、一度ならまだしも多いときには毎日入っていて気味が悪い、と。
へぇ~下らないね。彼女はせせら笑うように言い捨てる。でも、毎日入ってるってのは気になるね。
そうなの――きみが不安げにこう言うと、彼女は答える。じゃあ、私がその住所まで見に行ってあげるよ。きみは慌てて返す。危ないからやめなよ。最近、物騒な事件が流行ってるし。知ってるよ、片足の男が声を掛けてくるってやつでしょ。あの時はよくもやってくれたなって――
よくある都市伝説じゃん。次の日、きみはそう言っていたあのクラスメートが学校の来ていないのに気づくと、気が気ではなかった。
きみは教室を抜け出すと、取るものも取り敢えずあのチラシに記載された住所へ向かった。住所は町外れの、廃屋のような見た目の、古めかしいアパートの二階に置かれていた。
きみは息を切らしながら錆び付いた階段を上がって来ると、ゆっくり扉を開ける。辺りには嫌な匂いが立ち込めている。
杖を突く音がねばつくように玄関へと向かう。それから、興奮を抑えきれず、わたしは口走るのだ――ありがとう、やっと捕まえた、と。


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「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人を思い浮かべて、言葉を綴ってみて

5/3/2023, 2:50:36 PM