一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・閉塞感の醜い轍
 
 必ず納得のいくものができるのだと、これはまだ完成ではないと、何度も僕は塑像を壊す。
 繰り返す、制作と破壊。
 いまさら引き返せない。完全な完成作を作るんだ、と。僕は今日も粘土を捏ね回す。
 友人、知人は、日増しに僕から距離をとっていった。いや、僕が彼らを遠ざけたのかもしれない。想像に没入するために雑音は要らない。
 最後に他人と話したのは、別れた恋人。悲惨な別れが嫌で僕はあまり話さなかった。彼女が別れの言葉を口にして、僕はそれに頷いた。ただ、それだけ。
 去り際、僕の暗い部屋の扉を開け、外の光を背負った彼女は言った。
「ウロボロスみたい」
 尾を噛む蛇。
 あれは独り言だったのかな? それとも何もなさない僕へのあてつけだったのかな?
 想像、破壊。
 あの日からウロボロスが僕の横で輪転する。創造の神は、僕を急かすように鱗粉を振り撒く。
 僕はできたはずの想像傑作を背負って、まだ見ぬ傑作創造に勤しむ。
 できない、という逃げ場ははるか過去にしかない。
 いまさら引き返せない。
 僕の彫刻は完成しない。

テーマ; 軌跡

5/1/2025, 2:48:49 AM