ミミッキュ

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"お祭り"

いつもの帰り道、住宅街を歩いていると町内掲示板が目に付いた。掲示板には暖かく柔らかな色の灯りを放つ提灯がデカデカとレイアウトされ、それに合わせたフォントの文字が様々な大きさで踊っている。どうやら近所の神社で夏祭りがあるらしい。
「へぇー、もうそんな時期なんだぁ。」
ポスターを眺めていると、いつの間にか隣に来たニコがそう呟く──声の大きさ的には呟きではないが──。先程まで自分より何歩も前を歩いていたので驚いて思わず声を上げる。
「うおっ、ビックリした…。んだよ、行きてぇのか?」
こういう行事に心弾ませるなんて、まだまだ子どもだな。なんて思っていたが、
「んー。行きたいけど、積みゲーあるし気になるゲームの新作も近々発売されるし、今年はやめとこっかな。」
「…そうかよ。」
"やっぱりこいつ生粋のゲーマーだ"と、少し引いた。
「んで、大我は?行くんでしょ?」
「…は?行くってどういう…」
──どういう意味だよ。つかなんで俺が夏祭りに行くって話になんだよ。
意味が分からなすぎて驚き、一呼吸置いてそう言葉を続けようとしたがニコがすぐさま言葉を続けてきたため叶わなかった。
「決まってんじゃん。しないの?"お祭りデート"!!」
「ッ…!?は、はぁ!?」
デートだと?ますます話が見えない。言葉が出てこず、口をハクハクとさせていると。
「だって、アンタら2人付き合ってんのにぜぇーん然イチャつきもしなけりゃ、電話とかの内容仕事ばっかで恋人なのか疑いたくなるしぃ。」
「べ、別に良いだろ。コイビトドウシだからって付き合う前と同じ様に過ごしても。」
動揺しすぎて"恋人同士"が多少たどたどしくカタコトの様な発音になる。
「まぁ、アンタらの性格的にしょうがないっちゃしょうがないけどさぁ…。たまには恋人っぽくデートとかしてきなよ、ね?」
「…。け、けど、アイツだって予定とかあるし…。」
「ちゃんと言ったら聞き入れてくれるよ。それに、カワイイ恋人からの、珍しぃ〜お願いだよ?絶対意地でも予定空けてくれるって。」
「んなっ…!?」
"カワイイって言うな"と異議を申し立てようと思ったが、これ以上疲弊したくないのでグッと堪えた。
「だからさ、"お祭りデートしよ"ってメッセ送っちゃお。スマホ貸して!!」
「あっ!!おい、何しやがる!!」
ポケットの中のスマホを強引に取り上げられ、「返せ!!」「ヤダ〜」の攻防を繰り広げながらも俺のポケットから取り上げたスマホを器用に弄って、数秒後「はい、返しまぁす。」とわざとらしいセリフを吐きながらスマホの画面を俺に向けて返してきた。半ば取り上げる様に受け取ると、画面には鏡との個人チャット画面が展開されており、1番下の最新のメッセは俺からの"今度の週末、お祭りデートしよ"と、打ったのが明らかに俺じゃない文面のメッセが送信されていた。
「は、はぁ!?何してくれてんだテメェ!!」
「だって、そうでもしなきゃ"自分から誘う"なんてしないでしょ?」
「うぅ…。」
──確かにそうだけどよ。図星だけどよ…!!
だからってあんな強引なやり方で…!!やっぱコイツといると精神的にも、どっと疲れる。スマホの画面を改めて見ると、俺が──ニコが──送ったメッセに既読の文字が付いていた。
「なっ…!?」
「ん?どしたの…。あららぁ、もう手遅れだねぇ。」
俺のスマホの画面を覗き込み、変な間延びしたわざとらしいセリフを俺の顔を覗き込みながら吐いてきた。
──…コイツ、今日の晩飯抜きにしよ。
すると俺のスマホから通知音が鳴った。見ると鏡からのメッセが送られてきていた。"分かった、予定を空けておく"といつも通りの簡素なメッセだった。
「うおっ…。」
「おっ何なに?お誘いの返事?」
と、また覗き込んできた。メッセを見るとニヤニヤしながら。
「やったじゃ〜ん、アタシのおかげなんだから今晩なんか奢ってよ?」
「うるせぇ。」
「あ、その前に浴衣買いに行かないと。」
「はぁ?…んでそうなんだよ。」
「だってデートだよデート!!しかもお祭りデート!!お祭りデートは浴衣で行かなきゃ。」
「んだよそれ。別に浴衣じゃなくても良いだろ。いい歳した大人が浴衣着ていくとかねぇだろ、私服で良いだろ私服で。それか甚平なら確かクローゼットの奥の方にしまってたはずだから…。」
「良くない!!ほら、浴衣買いに行くよ!!」
と、力いっぱい引っ張られ、つんのめる。
「うおっ…!!や、やめろそんな引っ張んじゃねぇ!!」
「グズグズしてないでさっさと付いて来る!!早くしないと良いのなくなるよ!!」
「わーったから!!…っ、まず手ぇ離せ!!」
やいのやいの言いながらショッピングモールまでの道のりを歩いてった。

7/28/2023, 11:55:16 AM