笛闘紳士(てきとうしんし)

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       [まゆ 私の人生No.❓]

「行かないで。お留守番嫌だ。まゆも一緒に行く」

「まゆはもう、保育園卒園したでしょ?だから、お留守番する事だって出来る様になったんだから。30分だけ家で待ってて」

ママは今にも泣きそうな私を見て、玄関前で困った顔をしながら優しく励まそうとしてきた。でも私は、突然ママから言われた初めての留守番に、不安で一杯だった。

「泥棒来たらどうしよう…お家が火事になったら?知らない人がピンポンしてきたら?怖い人お家に来たら?」

ご飯の時間にパパとママが見ているニュース番組の内容を半分以上理解出来ていないながらも、ぼんやり見聞きしていた私だけど、火事や事故や事件の恐怖は既に理解出来ていた。だからその悲惨さに悲しくなったり怖くなったりする事があった。

自分で考えた不安に自分で押し潰されてしまった私は、ついに声を上げ、泣いてしまった。なにより、パパかママどちらも無しに 一人になる事が我慢出来なかった。

保育園最後の思い出として友達達と参加したお泊まり保育。そこでも、外が暗くなってもパパもママも居ない寂しさから泣いてしまい、泣き止んで眠るまで先生と友達に手を繋いでもらっていた。それに比べたら30分なんて短い時間。それでも一人で居る事になる時間は寂しくて嫌だった。お泊まり保育の時は友達や先生が居てくれたから何とかなったけれど、今回のお留守番は一人。私以外誰も居ない。

「まゆも一緒に行く」

私は泣きながらママの服を掴んだ。ママはそんな私の頭を優しく撫でて謝った

「ごめんね。まだ留守番は早かったか。じゃあ一緒に行こ」

「うん」

私の初めての留守番挑戦は先延ばしになった。


※この物語はフィクションです

行かないで 作:笛闘紳士(てきとうしんし)

10/24/2024, 12:09:54 PM