鯖缶

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仕事の昼休み、会社を出て足早にいつもの場所へ向かうと、あれがなくなっていた。
(あぁ、とうとう来たか…。近くて良かったのになぁ。) 
俺はすぐに気持ちを切り替え次の場所へと向かう。(次に近いのは、と。)
こんな日が来たときのために、チェックを欠かさず行っていた甲斐があった。
(この先の喫茶店…げ、臨休かよ。)
コーヒーを一杯頼むのは懐に響くけど、なんて考えている場合じゃなかった。
会社から次第に離れて行き、気持ちが急く。
足は小走りに近くなっている。
(あの角の自販機の隣に…なくなってる!)
会社を始点としたうずまきは終点を見つけられずに大きくなっていく。
(あそこの工事は先週末で終わりだったからもうないし、バス停のベンチのは…バス待ちの人がいるか。あとは、)
ちらりと腕時計を見る。そろそろ会社に戻らないと休憩時間内に戻れなくなる。
(あいつの家!)
恥も外聞もなく走り出し、アパートへ向かいながらスマホを取り出し電話をかける。
聴き慣れた呼び出しの音楽が鳴り始めてすぐに『どした?』と応答があり「今から家行く!」と間髪入れずに答える。
『え? 今、外だわ。』
今、最後の、たった1つの希望が潰えた。
『何? どしたの?』
俺は立ち止まり天を仰ぐ。
「喫煙コーナーが見つからないんだ。」

3/3/2023, 9:59:02 AM