ぼたん丸

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「はじめまして。」

何度繰り返したか、何度振り出しに戻ったか。
顔を見る度にお前は俺を忘れて、余所行きの笑顔で笑いかけてきた。

俺の名前を何度も教えた。その度にお前は漢字も覚えようとした。
同じ話を何度もした。その度にお前は笑った。
いつでも同じものを持っていった。お前は飽きることなく喜んだ。

「はじめまして」を告げられる度、胸の奥がきりきりと傷んだ。
覚えていてほしかった。忘れないでほしかった。
「はじめまして」を聞くのは、もう嫌だった。

けれど、それでも。
「はじめまして」を聞くのは、確かに嫌だったけれど。
「さようなら」が聞きたいわけじゃあ、なかったんだ。

ひゅうと木枯らしが駆け抜ける。
冷たい風、如何なる者にも平等で、無慈悲な風。
頬を刺すそれはどこまでも乾いて、寂しかった。


[木枯らし]

1/17/2024, 10:41:03 PM