「――――……ん」
自然と開いた瞼。
まだ微睡みのなかにいる頭とだらだらと気だるげな身体に、シーツの上でゴロゴロ駄々をこねた。何の違和感もなく手が枕元のスマホを取った。
パッと光を放つそれに目を細めてディスプレイに表示された数字を見る。
「うぁ…寝すぎた……」
そろそろ深夜12時を回る頃。すっかりと寝坊して1回目の食事は逃してしまう。食べようと思って冷蔵庫に入れていた鶏肉のパプリカ煮込み。まあ、いまから食べればいいか。
そうぐうたらな思考。
ふととなりを見るときみがいない。
あれ、まだ眠くないのかな?
とりあえず部屋着を着替えてリビングに顔を出す。煌々とついた室内灯。まさか、まさか、まだ起きてるの? そう思い見渡す。
「あ」
ソファの背もたれに傾けたきみの後頭部。
前に回れば目を閉じて寝こけているみたい。部屋着もパジャマに着替えて、もうベッドに入るだけの姿で。
珍しい。
いつも夜更かしもほどほどにしてるのに。
ふとサイドテーブルが目に入った。
きみのお気に入りのカップにこげ茶とはちょっと違う色。いつもは紅茶派なのに。
……もしかして、ぼくが起きてくるのを待っててくれたのかな。
うわぁ、ぼくってばひどいやつ!
せっせときみの毛布を持ってきて、冷蔵庫のごはんはレンジてチン。きみのとなりに陣取る。
眉間に薄く寄ったシワを指先でぐいぐいと伸ばしてやった。あんまりひどいと痕になるって聞いたことがある。
ソファの前にはおっきなガラス窓。ベランダもないそこからは、きれいにお外が見える。きみがどうしてもって言って、こういうところを探し回ったのはまあまあいい思い出。
高台を選んだからここから見える景色は抜群。
もう少し早く起きていれば、きみといっしょに薄い夜が紫に染まってゆくのが見れたのに。
そっけない味がする。
ガラスの向こうに広がる街並みはすっかり光を宿している。だけれど車も人も通らないすっからからんの道。大きな明かりはあるけれど小さな明かりはとっくに消えている。
まるで無重力の世界みたい。
きみがいる世界はぜんぶがぜんぶ自然に明るくて華やかなのにね。
って言うと、きみはいつも「あなたの世界は誰もが見れるものじゃない、特別なものですよ」って言うの。そんな大層なものじゃないのにね。
ぜんぶ地に足が着かないみたいにぷかぷかして、ゆるやかに死んで生き返るのを待つみたいな。
まあ、ぼくは好きだけれど。
この部屋はコロニーみたい。
室内灯をオレンジにして、きみに寄りかかる。なんだか優越感に浸るの。
ぼく、今日は寝坊したからね、きみと地球にいられる時間はいつもより長いはず。
「たのしみだなぁ」
#夜景
9/19/2023, 3:20:35 AM