行動力

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肉が焦げる匂いがした。
人の意思によって破壊し尽くされた土地には死骸ばかりが転がり、かつての光景はもう思い出せない。
男は自陣の生存者を探す為歩いていた。生物の命を散らしてきた銃を手に、戦場だった場所を歩く。

「見逃してくれ」

見つけたのは同年代くらいの敵であった。足を怪我しているようで、容易く逃げられるような状態では無い。

「家族が、妻がいるんだ。必ず帰ると、約束したんだ……」

敵は地面に頭を擦り付け、「頼む……」と震えた声で縋った。代償を要求されればなんだって差し出す。だから……
それを見下ろしていた男はその場にしゃがみ、

「俺、身代わりなんだよ」
「……」
「弟がさぁ、この戦争に駆り出されそうになってたんだよ。……けど、そんなのさ、見てるだけとか無理だろ?」

友達に語りかけるような、明るい口調で話し始めた。それも戦地には似合わぬ、穏やかな笑顔で。

「交渉したよ。俺が代わりに全部やるからって。だから俺は、殺すよ。お前も」
「、、ぁ、待っ――」
「意味のある死だぜ。よかったな、奥さんも多少は浮かばれる」

敵の言葉は銃声でかき消された。男は動かなくなった肉塊を蹴飛ばして、再び戦地を歩く。

「……敵に縋ってんじゃねぇよ。縋るなら神にしとけって。俺みたいに」

男には日課があった。朝と夜、暇な時間に神へ祈るのだ。彼は宗教の信者では無く、これは戦争が始まってから習慣となったものである。
毎日、瞼を閉じて祈るのだ。

奇跡を起こしてください――と。

この戦争を生きて、再び平和な日々に戻れる確率は……それこそ、奇跡と呼べる確率だろうから。

3/3/2026, 10:10:31 AM