時雨

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誰もいない教室
〜プロローグ〜
「ガラガラガラ」扉を開け夕焼けに染まった教室を見渡す。
このクラスとももうお別れか、、、


役割
「先生さようなら〜」
「おー、気をつけて帰るんだよ。」
俺の名前は新木 優希。春からこのクラスの担任になった
教師歴は6年程なのもあり生徒達からは優先生と呼ばれ、親しげに話しかけてくる子も増えてはきた。
だが、俺は正直子供が苦手だ。教えるのは昔から両親が教師なのもあり他の人よりかは優れているのが評価されたらしい。

教科はと言うと社会を教えている。
地理、産業、世界の歴史など1.2年の時とは内容が複雑になり覚える事も多くなる。
それ故に莫大な内容の中からピックアップをしながら生徒達の理解を促す工夫をする授業は神経が日に日にすり減らされていくのが現状だ。

だが辛いことばかりでは無い。例えば俺の授業でクラス全体のテストの平均点数が上がるのは年数を重ねていくほど嬉しいものだ。


記憶
光が窓から優しく包み込む教室。
黒板には卒業と書かれた文字に生徒達が楽しげに書いたそれぞれの想いを綴った文字や絵が繊細にでも色鮮やかに載っている。

今まで卒業自体は数回経験してきたが今年は違う。
俺自身、次のステップに進むために中学の教員免許を習得したのだ。
場所は、県外にある中学の教師をする事が、このクラスを受け持った後に決まった。
無論、生徒達からは応援の言葉はもらったが、内心この場所で多くを学んできた身からすると複雑な心境だ。

一人一人の机を触り物思いに老けていると
「おや、優先生?珍しいですね。」
声が聞こえる方に振り向くと
「小山校長、、、」
俺が新人の時によくお世話になったお爺ちゃん先生だ。
小山校長は俺の方にゆっくりと近づきながら話を続ける。
「いつもの君ならこの時間帯はとっくの昔に帰ってるはずだろう。」
俺はあはは、、とぎこちなく笑いながら話を続ける。
「卒業を何回も経験してきたからこそ今回のクラスには考え深いものがあります。
この6年間、私は教師という立場を上手くをできていたのでしょうか。」
すると校長は「君は悪い意味でも真面目だったからのぉ〜」「だが、それこそが生徒達の心を強く掴みここまで続けてこれたと言っても過言ではなかろうかい。」と微笑みながら俺の方を向いた。

俺は「確かにそうなのかも知れませんね。」と呟き誰もいない教室を後にした。



〜エピローグ〜
「やっべ、、遅れる」
時刻は約束の時間まで後30分を切っていた。
俺はベッドから飛び起き新品のスーツに袖を通す。
今日は教え子の結婚式だ。
あの学校を退職して20年が過ぎた頃に突然連絡があり今では飲みに行く中にまでになった。
偶然が重なったのか、神様のいたずらなのかはさておきバタバタと身支度を済ます。
タクシーに乗り式場に着くと開始時刻まで残り数分だった。「はぁ、、間に合った。」
俺は息を切らして席に着く。すると昔の教え子も何人かいるみたいで会話を楽しんでいる様子がみえた。

昔はやんちゃしてた子達もやはり大人になると見違える程逞しく、綺麗に成長しているのを目の当たりにし既に目頭が熱くなる。

「いかん、いかん、年を取ると涙腺が熱くなる。」
俺は心に言い聞かせる。

司会の人が「それではお待たせしました。新郎の入場です。拍手でお迎えください。」

その合図で奥の扉が開き、初々しいかった頃の面影はなく自信に満ち溢れた教え子の姿がみえる。

俺は手が赤くなるほどの拍手を送り、ハンカチをびちょ濡れになるまで泣いたのを式終わりの数日後に届いたビデオ内で見つけた。

fin








9/7/2025, 7:07:29 AM