とある恋人たちの日常。

Open App

 
「だめ」
「え、どうしてもダメですか?」
「だめ」
 
 久しぶりの押し問答。
 彼女は白くてヒラヒラの多くて可愛らしい水着を持って俺に見せてくる。
 
 ああ、絶対に可愛いよね。わかってるよ、絶対に可愛い。
 
 眉毛を八の字にして俺を見上げてくる。捨てられた子犬みたいな表情でいたたまれない気持ちになると言うか……可愛いんです。
 
 君は俺がその目に弱いのわかってやってるよね!
 
「だって、可愛いですよ。私に似合いませんか?」
 
 似合ってます。絶対に似合うと思います。なんなら俺はその水着姿を見たいです!
 
「この手の話しは毎年やっている気がする……」
 
 俺は思考し過ぎて一気に疲れてきた。
 
「だって可愛いじゃないですか!」
「だから、毎回言ってるでしょ。布面積少な過ぎるの、だめ!」
「えー!」
 
 そりゃ可愛いよ。
 君に絶対似合うよ。
 俺としては全力で見たいよ。
 
 どうしても、これは譲れない。
 そんな可愛い水着を着てプールに行ったら、邪な目で君を見る輩が湧いて出てくるの間違いないから絶対にだめ!
 
 頬をふくらませて納得いかないという顔をする彼女を見ていると、それはそれで心苦しい。
 
「じゃあさ、今年はプライベートで泳げるプールがある場所探そうか」
「え!?」
「俺も君のその姿は見たいけれど、他のヤツらに見せるのは嫌だ!」
 
 さすがに恥ずかしくて、彼女に視線を向けずにそう告げると彼女は俺の腕をしっかり掴んできた。
 驚いて彼女を見つめると、満面の笑みと言うか、嬉しそうと言うかニヤニヤしている。
 
「うふふ〜」
「なんとでも言って」
「言いません。私、大切にされているって改めてわかって嬉しいです」
「大切だよ」
 
 ひとつ息をついてから、彼女が持っている水着を手に取る。
 
「サイズ、これでいいの?」
「あ、試着します」
「う。するんだ」
「そりゃ、水着はしますよ。合わなかったら大変じゃないですか」
「ソレハソウデスネ」
 
 改めて彼女に水着を戻すと、フィッティングルームを探そうと周りを見回した。
 
「その水着、俺が買うよ」
「え、いいんですか!?」
 
 驚いた顔で俺を見つめてくる。俺は唇を尖らせて彼女に呟いた。
 
「そのかわり、俺以外に見せないでね」
 
 
 
おわり
 
 
 
三六八、どうしても……

5/19/2025, 1:45:35 PM