霜月 朔(創作)

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bye bye…


静かだった夜が、
君の温もりを、
忘れてしまったみたい。
でも、瞼の裏には、
君の香りだけが、
まだ残ってる。

あれは恋じゃなかった──
そう言い聞かせても、
触れた肌の温もりの記憶が、
君を想った気持ちは、
仮初めなんかじゃなかったって、
胸の奥に囁くんだ。

誰かの代わり。
それでもよかった。
ただ、独りじゃないと、
思える時間が欲しかっただけ。

本当は、最初から知ってた。
君の心が、遠くにあることは。
それでも、もう少しだけ、
寄り掛かっていて欲しかったんだ。

最初から決まってた。
私は、君の帰る場所には、
なれないことも。
君が、別の誰かのもとへ、
戻っていくことも。

だから、最後に言うね。
bye bye…
声にならないくらい、
優しく、静かに。

そして──
微笑みを浮かべて、
そっと手を振って、
また、独りに戻るだけ。

〜〜〜


君と見た景色


君と見た景色が、
胸の奥に焼き付いて、
離れない。

あの日の空は、
何処までも静かで、
風は優しく、
頬を撫でていたのに。

なのに、どうして。
今、こんなにも冷たく、
鋭く痛むのだろう。

「ずっと一緒ですよ。」
君のその声が、
まだ、耳に残っている。

君は優しかった。
だが、笑顔の奥の影が、
酷く美しくて、脆くて。
そして…怖かった。

私の手を握る君の指先が、
まるで鎖のように重く、
逃れようもない程に、
きつく絡みついていた。

だが。
君の手を解けないのは、
私がまだ、君と見た景色に、
救いを求め、縋っていたから。

君は私の世界を、
終わらせようとしていた。
だが、私は、
どこかで望んでいた。
この醜く歪んだ世界から、
解き放たれ、
君と堕ちることを。

夜の底で、君は囁いた。
「これで本当に一緒になれますね」
甘い毒のような、その言葉に、
私は、救われた気がした。

君と見た景色。
それは、
終わらない夢のようで、
醒めない悪夢のようでもあった。

最期に目に映ったのは、
君の微笑みと、
あの日と同じ、
美し過ぎる空、だった。


3/22/2025, 4:16:34 PM