梵 ぼくた

Open App

『 生きて 』


そう書かれた手紙が,枕元に置いてあった。
まだ重い瞼を擦りながら,白い便箋をひょいと持ち上げてみる。
羽根布団の温もりを全身で感じたまま,手紙に書かれた1文の意味を読み取ろうと試みた。
……が,どうも汲み取れない。

ショボショボする瞳をかっぴらき,手紙の表裏に何度も目を通してみた。
掠れた字体,書き始めのインク溜まり,走り書きのような少し崩れた日本語…

…この字,アタシの字じゃん。

そう認識しては,眠気なんて風に飛ばされてしまった。
こんな手紙書いた事ないのに…と不信感に陥っていれば,誰かが扉を叩く音がする。

「 起きた?任務入ってるんだけど 」

『 ぁ〜…はいはい 』

彼の心地の良い低音ボイスが鼓膜を揺らす。
任務…今日は何処の神社だっけな,と呑気な事を考えながら布団から出て,手紙を四角く折りたたんだ。

何も入っていない鍵付きの棚へ置けば,首を傾げてしまってやった。


10年後,その意味が解ることは,誰も知らないだろう。

2/15/2024, 11:55:36 AM