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「視線の先には」

ここはどこなんだろう。記憶が曖昧で何故ここにいるのかわからない。とりあえず顔だけ起こし、見たこともない部屋でベッドに横たわっていることはわかった。それから眠気が勝ってまた寝入ってしまったらしい。完全に目覚めたときにはもう陽は高くまぶしい光に満ちている。

課長と一緒に飲んでいた。そうだ、今日は休みだ。明日は休みだし他の場所で飲み直そうと言われ、ウォーターフロントのホテルのバーに連れて行かれた。そこのカクテルがおいしくて何杯もおかわりしたところまで思い出した。

窓際に行き外を見た。海だ。太陽の光が映ってきらきらしている。きれいだ。

酔いつぶれた私をこの部屋に連れ込んだ?あの課長が?そんな度胸ないでしょう。じゃあ、連れ込んだのは私?あり得なくもない。だって課長。ちっとも進んでくれないんだもの。待ちくたびれちゃったよ。

そのときドアが開いた。視線の先に現れたのは、やはり課長だ。袋を下げているから買い物してきたのだろう。まっすぐにこちらに向かってくる。

「おはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。あの、夕べ…」

言いかけた言葉は課長の唇にさえぎられた。なぜこんなことに?

「ありがとう。気持ち教えてくれて。うれしかった」

私、何を口走りましたか?まあ、いいか。課長に抱きしめられて、そんなことはどうでもよくなった。

7/20/2024, 1:38:11 AM