木蟹村

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 自転車に乗るのなんて何年振りだろう。
 グーグルマップで条件を変えて何度検索を繰り返しても、ここから先は徒歩もしくは配車サービスを利用するしかない。それか、コンビニで奇跡的に残っていた最後の一台のレンタルサイクルを借りていくかだ。
 問題は二つ。この自転車を返すことのできるスポットにこの先出会うことができるのかということ。私が自転車に乗ることができるかということ。
 三十分は悩んだが仕方がない。自転車を借りた。スマホの充電も怪しいので切れる前にモバイルバッテリーも借りておく。めちゃくちゃ暑いので飲み物も買う。
 前に乗ったのがいつだったか思い出せない。ふらふらして危ないからと、高校の通学に使わせてもらえなかったのだ。その頃から計算すると、もう二十年近く乗っていないことになる。
 乗れないなんてことはない。ちょっとは転ぶかもしれないけど、車通りも少ない田舎道だ。誰に見られることもない。
 またがって、サドルを下げるのにしばらく苦労した。ようやく足が付くようになって、よし、出発。
 ペダルを踏むと、前に進む。思ったよりすごく軽い。道に出るのにぐらぐらしたけど、道に出てからは安定した。まっすぐだから。なんと電動自転車だ。すごい。こんなに軽くてぐんぐん進む。どこまでも進んでいけそうだ。
 もっと、もっと行けそう、行きたい、と調子に乗っていたところで目的地に着いた。観光地らしい広い駐車場には観光バスが何台も停まっているし乗用車もギチギチ。え、こんなに人どこから出てきた?
 見回すと駐車場は見当たらないし、そのくせレンタルサイクルのステーションはいっぱいだった。
 自転車返せないし、停められそうにないし、え、これここまんま中入るの? 神社なのに?
 ひと通り戸惑った後、神社の様子を見てみる。本殿までがものすごく長くて、半ば公演になっているような境内。
 あれ、いけそうだな。
 そろそろ、自転車を押して、一歩踏み込んでみる。


「自転車に乗って」

8/14/2023, 2:10:38 PM