るに

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いつもと変わらない夏の日のこと。
もちろんする事なんか無くて
なんとなくいつもの場所に。
そこには君がもう居て、
ブランコに座って黒猫を撫でてた。
君は撫でていた手をぱっとこちらに向ける。
やぁやぁ。
ここにいると思ったよ。
軽く挨拶をして
渡された猫を抱き抱える。
君からは相変わらず
柑橘系の爽やかな香りがする。
最近どう?
まあまあかな、そっちは?
ぼちぼちかな。
眩しい日差しの中、
そんな中身のない会話をしていた。
でも、私は夏嫌いかな。
君は夏が好きそうな性格だったから
私は驚いた。
その一瞬を黒猫は逃さなかった。
するりと私の腕から抜けていき
公園から出ていってしまった。
あー!私まだあんまりもふもふしてないのにー!
君は猫を追いかけて走り出す。
君はいっつも1つのものを追いかけると
周りが見えなくなって
しょっちゅう迷子になったり、
無くし物をしたりするので
私も後を追う。
もう少し、
早く追いかけていたら良かったと思った。
丁度曲がり角を曲がった時
猫は歩道の向こう側に、
君は赤く光る信号が照らす
歩道に飛び出していた。
バッとなにか大きなものが来たかと思えば
それはトラックで、
君を轢きずって通り過ぎていった。
血飛沫は全身に飛んだ。
君からはもう
柑橘系の香りはしなかった。
鉄っぽくて酸っぱいような血の匂いばかり。
何かが込み上げてきて
私は激しくむせ返った。
目を瞑り
耳を塞ぎ叫ぶ。
嘘だ。
君がこんなところで死んじゃうなんて。
嘘、嘘、嘘。
嘘じゃないよ。
君の声か私の声か分からないような
そんな声が聞こえた。
ゆっくり目を開け見てみると
空気がゆらゆらと立っていた。
陽炎と言うのだろうか。
見るのは初めてでよくわからない
未知の交差点。
陽炎はこちらを笑顔で見つめていたけど
暑さと悲しさと気持ち悪さで
蝉の音しか聞こえず眩んだ。
"Good Midnight!"
目が覚めると
何故かベッドにいて
目覚めの悪い夢を見たと思い、
蝉の声に煩さを覚えた。

10/11/2025, 2:39:09 PM