光があれば影もある。
眩しいスポットライトに照らされる世界があればその逆もまた然り。
でも存外俺はこの場所を気に入っている。
舞台袖唯一の扉。
所謂「扉付き」と呼ばれる俺は、役者に扉を開く合図を送るのが仕事だ。
ここは役者が何処よりも光る場所。
舞台に上がる寸前の高揚感、緊張感、それ故の恐怖感の興奮。
この光の入らぬ場所に何を置いていくかでその役者の全てが決まると言っても過言では無い。
さて、次は…あぁそうだ、彼女は今日が初舞台だっけ。
ちらと目を横にやると、まだあどけない少女が扉のハンドル前に立っている。心做しかその手は微かに震えていた。
鬼が出るか蛇が出るか。
そう思いながら彼女に合図を送る。
彼女は恐る恐るハンドルを握り、一度強く目を閉じた。
ぱっと彼女が目を開き、ハンドルを押す。
重い音を立てる扉から射し込んでくる光が彼女を貫く。
黒い瞳に光が乱反射して、彼女はまるで火花が散った様な顔をする。
暗い中照らされた瞳は挑戦的に弧を描いた。
再び重い音を立てながら閉じる扉を見て、ふとつられ笑みを浮かべる。
あぁ、蛇は蛇でも。
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2024.7.31°
「黒曜石」
7/31/2024, 1:50:20 AM