作家志望の高校生

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病院の窓から見える、湖畔の花畑が綺麗だった。
誰が植えているのか、誰が水をやったのかも知らないが、風に揺られて、ただ美しく生きている花を見ていると、何故だか僕まで救われたような気になる。
そんな花畑の中を、自由気ままに、ふわふわと羽ばたいている蝶が、好きだった。
病院にいる時には手が届かなくて、眼下で飛んでいる美しい翅をただ羨んでいた。
その翅も、今ではこの手に収めることができる。
自由だった彼らをそっと捕まえて、丁寧に丁寧に展翅して、磔にして、何より美しく殺してあげる。
蜘蛛に翅を食い千切られて醜く死に絶えるくらいなら、僕が彼らを美しいままにしてあげたい。
アゲハチョウも、オオムラサキも、ゼルフィスもアサギマダラも捕った。
翅を広げて、赤いピンで押さえ込んで、柔らかいベルベットが敷かれた展示箱に飾ってあげた。
色とりどりで、優雅で美しい蝶。
その中に、少しだけ見劣りするような、あまり目立たない、地味な蝶がいた。
モンシロチョウ。
どこにだっていて、特別感も無い。
翅も大きくなく、白い翅は美しいけれど、アゲハのそれと比べれば、多くの人がアゲハを選ぶ。
けれど、僕はあの子が好きだった。
僕がいた病室とお揃いの、真っ白な翅。
そこにぽつんと取り残された黒い模様は、いつかの夕焼けの病室で、たった一人親を待って、窓に映った僕の瞳によく似ている。
彼らの持つ蝶言葉は「愛」。
僕は彼らを愛している。
あの真っ白な病室で、彼らだけが僕の前で、何事もない日常を見せてくれた。
病状を気遣われることも、余計な気を回されることもない。
ただ気ままに花を巡り、蜜を嗜み、あの純白の翅で以て、白い雲に溶け込む彼らは美しい。
今日もまた、赤い展示箱に、白い翅を刺していく。
ピンを何重にも、厳重に、丁寧に刺された彼らの翅は、確かに綺麗に開いて美しかった。
けれど、やっぱり、あの日の病室から見えた、自由に羽ばたく彼らの翅が、一等美しかった。
あの美しさが飾れるまで、僕はきっと彼らを愛して集め続ける。

テーマ:モンシロチョウ

5/11/2026, 9:02:12 AM