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急激に浮上した意識のまま
ガッと目を見開いた
ドッドッドッと心臓がうるさいし
目の前の景色は涙でぼけているようだった


息を整えながらふと目線だけ動かすと
枕元に座り込み所在なさげに手を彷徨わせる
小柄な姿が目に止まる

元々大きなその目は
今は驚いたように軽く見張られていた


……っくりしたぁー
急に目ぇ覚ますんだもん

中途半端に挙げられていた手が
ゆっくりと降りてきて
汗で張り付いた前髪をさらりと撫ぜていく

ね、大丈夫…?
すんごいうなされてたよ?

その宥めるような指先に
混乱した脳みそのまま
されるがままに撫ぜられ続ける

なんで
だって、お前は

怖い夢でもみた…?

いつものやかましさはそこになく
声を潜めて気遣わしげに尋ねられる

瞬間、堪らなくなって
腰に縋り付くように強引に抱き寄せ
薄い腹に頭を埋める

一瞬驚いたように止まった指先は
何も聞かずにまた頭を撫ぜ始めた


欲しくて欲しくて堪らなかった現実


大丈夫、大丈夫だよ
ここにいるから

信じて、すがってしまいたかった



もう少し寝よう
大丈夫だから

嫌だ
何が大丈夫だ

少し寝て目が覚めたら
とっておきの面白い話してあげるね

嫌だ

だって
目が覚めたら
目が覚めても
そこに


いつだって君のこと想ってる
ねえ、大好きだよ--




そこに、お前はいないんだろ?


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パチリと目を覚ます

窓辺から室内を満たす
馬鹿みたいに明るい日差しと柔らかな風
世界は今日も祝福されていて
当たり前みたいに日常は繰り返される


お前が居ないのに


目尻からこめかみに伝う涙が
ぽつり、ぽつりと枕を濡らす

お前が大好きだと言ったこの世界で


俺は、これから一人生きていくんだ



『夢と現実』
/長い長い悪夢(現実)

12/4/2023, 5:38:57 PM