勉強も運動も何もかも俺はできないわけじゃない。
むしろ全て秀でてると言っても過言ではないだろう。
なのに、いつもいつも褒められるのは兄貴ばかり。
俺が我武者羅に走る横を笑って抜き去って手の届かない所へ行きやがる。
俺は兄貴の背中を追うばかりで一向に抜かせない。
「いいよね、〇〇くんのお兄ちゃんは優秀で、私もそんなお兄ちゃんが欲しかった」
ある日、憧れの先輩からそんなことを言われた。
先輩は自分の理解者だと思っていたものだから。
裏切られたような気がした。
兄貴の話なんてして欲しくなかった。
、、、惨めになるから。
「兄ができることをどうして〇〇はできないの?
努力しなさい」
繰り返し言われるその言葉。
なぜ俺が努力をしていないと言い切るのか、どうして兄貴を引き合いに出すのか、俺は兄貴とは違う人間なのに。
別に褒めて欲しいわけじゃない。
でも優秀な兄の影に隠れる俺でありたくないだけだ。
なのにみんな、兄貴、兄貴、兄貴、兄貴、兄貴の事ばかり。
まるで俺が俺で無くなるような感覚に陥る。
俺が兄貴のようになったら皆はきっと満足するんだろう。
兄に向けてる薄ら寒い笑みを俺に向けてくれるんだろう。
両親も優秀な息子の親と言う肩書きを手に入れてさぞ喜ぶことだろう。
「あー!くだらねー!!」
「随分やさぐれてるのね。〇〇くん。」
「、、、」
「またお兄さんのことで悩んでいるの?
それとも私の姉が言ったことを気にしているのかしら」
「、、、聞いてたのか」
ええ、たまたま。
そう言って彼女は笑う。
「まぁ、気持ちは分からなくもないわ。私も優秀な姉を持っているもの。
、、、でも、私は皆に認められたいわけじゃない。
私を大切にしてくれる人の尊敬できる人でありたいと願うだけ。」
そう言うとあいつは前を向いた
「、、、大切にしてくれる人の尊敬できる人でありたい。か、そっか、ははっ!」
俺のことを見ようとしない両親なんて、俺を認めようとしない周りの奴らだって、それを気にする俺ですらもはやどうでもいい。
俺は兄貴になる必要なんてない。兄貴を追う必要だって。
俺は俺を見てくれて、俺のことを思ってくれる奴らに恥じぬ。そんな生き方ができればそれでいい。
「吹っ切れたみたいね。」
「、、、ありがとよ」
「どういたしまして」
あいつは俺の心を見透かすように目を細めると。
くるりと背を向けた。
「、、、それを気づかせてくれたのは貴方だけどね」
「ん?なんか言ったか?」
「いいえ、何も」
夕日が俺たちを照らす。
この時はほかの誰でもなく、確かに俺たちが主人公だった。
6/21/2025, 11:53:46 AM