土曜日の夜

Open App

あの人が「君には白が似合うね」と言ったから白色が好きになった。手入れには気を使って白い肌になるように努め、着る服は白のワンピース、白のシャツ、白のスカートが多くなった。
あの人が「君には桃色が似合うね」と言ったから桃色が好きになった。唇に引く色も、爪に塗る色も、首にかけるアクセサリーも桃色のものになった。
あの人が「君には黄色が似合うね」と言ったから黄色が好きになった。足元は黄色の靴で揃え、鞄や小物は黄色のものだけを持つようになった。
これで、あの人の好みになった。あの人に染まった、あの人だけの、わたし。

それなのに、あの人は赤が似合う彼女を選んだ。
私とは真逆の、赤い唇が印象的な彼女を。
爪には赤いマニキュアが塗られ、着る服も身につけるものも人目を引いた。あの人以外の人の視線をたくさん浴びるような彼女。それでもそんな彼女をあの人は選んだ。
私はあの人だけの視線が欲しくて、あの人だけのものになりたくて、それだけだったのに。

あの人が私の元を去ってから、私の世界は急に色褪せた。あれほど好きだった色が憎くて嫌いで仕方がない。そう思うのと同時に分からなくなった。

私が本当に好きだった色ってどれなんだろう。

6/22/2024, 2:38:26 AM