長年、私を愛してくれていたあの人が…。
長年、私を笑わしてくれていたあの人が…。
長年、私と、くだらない喧嘩をしてきたあの人が…。
ピーマン嫌いなあの人が…。
手先が不器用で、笑った顔が太陽みたいに温かい
あの人が…。二度と私のところへは帰ってこないと
知ったのは、一通の手紙が私の手元へ来た時だった。
あの人は…。海を渡った遠い国で、知らない誰かを助けそして…巻き込まれ命を落としたのだ。あの人と一緒に行った友が、この手紙を持って泣きながら私に告げた。
嘘でしょ?
何で?
どうして、ソコへ行ったの?
どうして、知らない国の人を助けたの?
これは、何かの冗談?
私を驚かせようとしているの?
色々な憶測が頭の中をグルグルと廻っていた。
けれど…私の目の前で泣いているこのヒトを見ると
そのグチャグチャになっている顔と涙を見ると…
あぁ…。真実なんだな…。と、私を冷静にさせてくれた
冷静になった私は、彼に落ち着いた声でこう話した。
『ありがとう。』ただ一言だけ。
彼は、一瞬驚いた顔をしたが
また声を荒げながら涙をこぼし始めた。
彼が落ち着くまで、側にいてあげた。
という云い方が合っているか分からない。ただ…
いま私が、誰かの側に一緒に居たいのかも知れない。
夕日が沈み空が暗く染め始めた頃に、彼は
「…帰ります。」と、呟いて私にお辞儀し暗闇の中を
歩いていった。私は、その背が見えなくなるまで
暗闇を見つめていた。彼の姿が、もう見えなくなった
頃。私は、手元の手紙を見つめ覚悟を決める。
鋏を持ち手紙の封を切り始めた。封の中からは
少し角が曲がって折りたたまれた紙が出てきた。
恐る恐る、その紙を開いていく。
《 君へ
この手紙を読んでいる。という事は
あいつが君に手紙を渡したね。僕がこの世から
居なくなった事を許してください。そして、あいつ
の事を怒らないであげて。僕の我儘を聞いてくれた
んだ。僕に万が一の事があったら届けてくれ。と
頼んだんだ。だから君は、馬鹿だなぁ。
と、笑ってくれ。あぁ。
僕は…幸せ者だ夢が2つも叶ったんだ。1つは
どこかの国で、誰かを助ける。2つめは、君に
会えたこと。触れ合えた事。愛していた事…
もうそれらは、二度と出来ない。けれどね
神様がいて1つだけ願い事をしても良いよ。って
言ってくれたら、たった1つだけ願って良いのなら
僕は、君の「心の灯火」になりたい。
君の心が、真っ暗にならないように。
僕が、君の心を灯してあげたい。 》
……手紙の文章は、これだけだった。
けして長くは無いけれど、あの人らしい文章に
私は十分だ。淋しくない。
何故なら、私の心にはあの人が生きている。
あの人が、火となり灯となり灯してくれている限り
私は、前を向いて生きて行ける。
これからも、この先も永遠に。
作:ロキ
9/2/2024, 12:13:30 PM