束の間の休息
駅の中のファストフード店が、今日はありがたい。
「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」
「えーっと、コーヒーのSを……いや、やっぱりカフェオレで。あ、いややっぱり」
「大丈夫ですよ、今はお客様も少ないですから。ゆっくり決めていただいて」
「ごめんなさい本当。えーっとじゃあ……」
眠いわけではない。けれど目をさましたい。けれど夢に浸っていたい。けれど甘いのはもう十分な気もする。けれど−−−。
「じゃ、コーヒーのSとアップルパイで」
「かしこまりました。店内をご利用ですか?」
「そうですね」
「かしこまりました。ご注文を確認します、ホットのブレンドコーヒーのSサイズがひとつと、アップルパイがおひとつ。以上でよろしかったですか?」
「うん」
「では合計で330円いただきます」
財布を開くと、ちょうどの小銭が入っていた。トレーにのせる。若い店員は手際よく金を拾ってレジを打つ。
「ちょうど頂戴いたします。それではこちらをお席においてお待ちください」
札を受け取って、外向きのカウンター席に座った。昼時というのに店内に人はまばらだった。
ぼうっとしていると、さっきとは別の若い人が注文したものを運んできた。礼を言ってコーヒーに口をつける。
顔をしかめたのは苦いからでも、何か気に入らなかったからでもない。ただ熱いまま喉を通るこれが、今のわたしには必要だと感じた。
「ああ」
ため息がでる。
「ごめんな、福井」
アップルパイをかじった。ブラックコーヒーとはまるで対照な甘さ。熱々であることだけが共通点だろう。
わたしは、どちらかしかできないのだな。コーヒーかパイか、彼女はどちらかひとつを望んでいるのではないだろうに。
330円の休息は15分と経たずに終わった。その間に気がついたこと。店を出たなら、やるべきことがある。
わたしはスマホの電話帳を開いて、彼女の名前を探した。
『彼女と先生』
10/9/2024, 1:13:15 AM