与太ガラス

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 静かな朝だった。寒さを感じる空気ではなく、汗ばむほどの暑さでもない。久しぶりに爽やかな気持ちで僕はシーツに包まっていた。弾むような透き通った声が聞こえて目を覚ました。

 それは彼女の鼻唄だった。僕はそのメロディになじみがあった。子どもの頃からよく聞いていた、誰もが知っているメロディだ。

「それ、なんの曲だっけ?」

 僕はベッドの上から彼女に聞いた。彼女は鼻唄を止め、僕に顔を向けて笑いかけた。

「起きてたんだ。おはよう」

 彼女は僕の質問に答えなかった。

「おはよう。いま起きた」

 彼女は続きをまた鼻唄で歌い始めた。

「知ってる曲なんだよ。なんだっけな」

「ええ? なんでわからないの?」

 そして彼女は一節を最後まで歌い切って言った。

「きらきら星」

 彼女がそう言うと同時に僕は思い出した。

 違うよ、君が歌っていたのは「かえるのうた」だよ。

 僕がそれを口にすることはなかった。その代わりに僕は大きくあくびをした。窓際から流れてくる空気を吸い込むと、青い味がした。

 ああ、そっか。もうすぐ雨が降る。

6/14/2025, 6:22:28 AM