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『センチメンタル・ジャーニー』

かつて、そう平成の半ば頃まで。
女の一人旅は、何かワケありではないか、失恋して死に場所を求めているのではないかなどと、邪推され嫌われていたものだった。

ホテルも旅館も女性の一人客は泊めてもらえず、純粋に旅を楽しみたいだけだと言うと、オカシナものでも見るような目で見られ、変人扱いされたものだ。

それを思うと、今は楽になった。

「おひとり様」という言葉が流行り、旅も食事もカラオケも一人で楽しむことができるようになった。

そもそも、失恋したら死ぬなんて、命が幾つあっても足りないじゃないか。
たとえ失恋旅行をしたとしても、「旅行して癒されて美味しいものいっぱい食べてスッキリしよう!」という感覚だ、今なら。

だから、そんなに何度も様子を見に来ないでほしいです、宿の人。
私は死んだりしないし、なんなら失恋もしていない。
仕事で疲れてリフレッシュするためにふらっと来ただけだから。

そう思いながら、鄙びた旅館の、テーブルの上に並べられた郷土料理に手を付けた。

9/16/2025, 7:51:24 AM