G14

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「おお、成功だ」
 目の前の描かれた魔法陣が妖しく輝く。
 昨日の晩から寝ずに作り上げたものだが、成功してよかった。
 失敗などしようものなら、ベットで寝込むところだった。
 徹夜して眠いからね。

 そんなことを考えている間にも、魔法陣の光がどんどん強くなっていく。
 目が開けてられないほど強くなり、思わず目をつぶる。
 そして光が収まった後目を開けると、魔法陣の上に一人の男が立っていた。

 その男は男の自分から見ても見問えるほどの美形であった。
 文字通り、人間離れした美しさだ。
 だが、姿かたちこそ人間だったが、頭に生えている角がその男を人間でないことを表していた。

「問おう、我を呼んだのは貴様か」
 目の前にいる悪魔は、低い声で自分に問いかけてきた。
「そうだ」
 俺は少しビビりながらも頷く。
 ぎこちなかったと思うが、悪魔は満足したらしく話を続ける。

「よかろう。
 では貴様の願いを叶えてやる。
 だが、その代わり貴様の魂をもらう。
 言え、何を望む!」
 悪魔は仰々しく宣言する。
 ここまでは予想通り。
 あとは、前もって決めていた言葉を言うだけだ。
 深呼吸して決意を固める。

「何もいらない」
「いいだどう。貴様の願いを叶えて――待て。
 貴様何と言った?」
「何もいらないって言った」
 悪魔は信じられない、といった表情で俺を見つめる。

「何もいらない……?
 ではなぜ我を呼んだ。」
 もっともな疑問である。
 呼び出した俺には説明責任があるだろう。

「呼びたかっただけだ」
「は?」
 悪魔が間抜けな声を出すが、無理もない……
 だが、呼び出したのには理由があるのだ。
 
「実は昨日、悪魔がいるかどうかで娘と喧嘩したんだ。
 いつもは俺が引き下がるんだが、黒魔術を信奉する俺としては引くことが出来なくてな……
 こうして、悪魔がいるかどうかを証明するために、貴様を呼んだ」
 悪魔は何も言わなかった。
 驚きすぎて声も出ないらしい。

「と言うことで帰っていいぞ。
 あ、その前に写真を……」
 パシャとスマホのカメラで写真を撮る。
 うむ、見てくれが美男子なだけあって、写真写りがとてもいい。
 これなら、娘も悪魔の存在を――
「そんな訳があるか!」
 悪魔は我慢できないとと言わんばかりに口を開く。

「我は、魂を代償に願いを叶える誇り高き悪魔だ。
 呼んだだけ?
 写真を撮るだけだと?
 ふざけやがって」
 悪魔は俺を殺さんばかりの目つきで俺を睨む。
 思わず意味もなく謝りそうになるが、悪魔に屈するわけにはいかない。

「そこをなんとか、帰ってもらえないだろうか」
「黙れ。魂どころか何も得る者が無かったのでは、我も笑いものだ!」
 悪魔が睨みつけてきて、思わずたじろぐ。
「貴様を殺して帰るのも簡単だが、我にもプライドがある。
 何が何でも願いを叶えて魂を貰う!」
「俺は絶対に願いを言わない。さっさと帰れ!」
「……それが望みか?」
「それはノーカン!」

 悪魔と言い争いをしていると、突然部屋の扉がノックされる。
「ねえ、父さん。そろそろ出てきてよ、私が悪かったからさ。ご飯食べよう?」
 娘の声だ。
 なんとタイミングの悪い。
 確かに娘に信じさせるため悪魔を呼んだが、会わせるつもりはない。
 娘を危険な目に会わせては父親として失格。
 ここは適当に言い含めて追い返そう。
 と考えていると、悪魔が妙に静かなことに気が付く。

「ああ、そうか……
 別に魂を貰うのは貴様じゃなくてもいいな」
「!」
 こいつ、俺じゃなくて娘の魂を!?
 何とか阻止しなくては!
 だが俺が止める前に、悪魔は行動に移す。

「すまん、見せたいものがあるから入ってきてくれ」
 なんと悪魔が俺の声と同じ声で、娘に入るよう促す。
「ちょ――」
「何?」
 娘は何も疑うことなく部屋に入ってくる。

 そして部屋に入って来た娘は、悪魔を見て目を見開いた。
「あっくんじゃん」
 と、悪魔に対して、まるで友達に会ったかのような声を出す。
 みれば悪魔も驚いている。
 ……どういうこと?

 驚いている俺と悪魔をよそに、部屋を見回しながらフンフンと頷いていた。
「なるほど、謎は全て解けた」
 娘は得意げな顔で推理を披露し始めた。
「あっくんが父さんが協力して、私に悪魔の存在を信じさせようとしたのね。
 部屋に魔法陣書いて、色々小物を用意して、あっくんを悪魔に仕立てて……
 残念ながら私とあっくんが知り合いだったから、計画は失敗したと……」
 儀式用に用意したどくろのイミテーションを手に取りながら、娘は「手の込んだことを」と呆れたように笑う。

「まったく心配して損した。ほら、ご飯が冷めるからリビングに来てね。
 あっ、あっくんもついでに食べていきなよ。
 先行ってるから」
 と、喋るだけ喋って部屋から出ていった。

 俺と悪魔の間に、気まずい空気が流れる。
 いたたまれない。
「知り合いなの?」
「はい、クラスメイトで、彼女と付き合ってます」
「え、付き合って……」
 まだ新情報が出てくるの。
 展開に付いて行けない……

 悪魔は先ほどまでの勢いはどこへやら、ずいぶんと大人しくなっていた。
「あ、彼女には僕が悪魔だっていう事を黙って下さい。
 彼女、悪魔の事信じていないので……
 その代わり願いを一つだけ叶えます。
 もちろん、魂もらいません」
「別に……」
 今の気分で叶えて欲しい願い事なんてない。
 しいて言うなら放っておいて欲しい。
 だが俺の気も知らず、悪魔は食い下がってくる

「何でも言ってください。
 彼女に嫌われないためなら、なんでもします……
 あっ、もし足りないなら、願い事3つくらい叶えましょうか?」
「いらないいらない」
 これはどうも、何かお願いしない限りは、引き下がらりそうにない。
 だけど、なんにも思いつかな――

 …あっ
 ある、月並みだけど一つだけ。
 これを言うのは恥ずかしいけど、でもいつかは言わないといけないことで、なら別に今でもいいだろう。
 居住まいを正して、悪魔の目をしっかりと見据える。

「娘を幸せにしてやってくれ、他には何もいらない」
 それを聞いた悪魔は一瞬キョトンとした後、
「絶対に叶えて見せます」
 そういって満面のの笑みを見せたのであった。

4/21/2024, 11:51:22 AM