月夜
「こんばんは、吸血鬼さん」
夜になると、私の部屋の前に彼は現れた。
私の声にふわりと微笑み、優雅なお辞儀で返した。
現代社会では見慣れない貴族のような衣服
風になびく真っ黒なマント
ふわふわとした白髪に美しい目鼻立ち。
側から見れば人間と変わらない。
だが明確に違うのは牙があることだ。
闇に紛れて生きる吸血鬼。そんな彼は私の恋人である。
初めて会ったのは1年前の満月が美しい夜だった。
最初に血を吸われた時は驚いたけれど、数を重ねていくと献血に似たものだと思えば怖くなかった。
吸血後にふらついた時に抱き止めてくれたこともあった。大丈夫かと聞くように私を見た瞳は優しさに溢れていた。今思えば、その時から彼に恋に堕ちて囚われていたのだろう。
そんな事を考えていると、今の自分だけを見ろと言うように指を絡められた。
繋いだ手に温もりはないはずなのに、温かく感じるのはそれほど彼に愛しさを感じてしまったからなのだろう。
好きと伝えるように見つめると、どちらからともなく口付けを交わした。
彼といられる夜がいつまでも続けばいいのに。
赤い月だけが、私たちを見つめていた。
3/8/2024, 3:19:22 PM